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2019年5月24日 (金)

認知症鉄道事故裁判

 昨年のことになりますが、当研究会の研修で、本会会員の田村先生から、先生が担当された認知症鉄道事故裁判についてのお話をうかがう機会がありました。医療事故裁判そのものではありませんが、昨今、高齢者による交通事故など、高齢者の判断能力低下が要因の一つと考えうる事件が多く報道されていることもあり、非常に興味深いご講演でしたのでご紹介したいと思います。

 認知症鉄道事故裁判は、認知症を患い、一人で外に出てしまうことのあった高齢者を家族が自宅で介護していたが、ある日、家族の注意をすり抜けて、屋外へでてしまい、線路に侵入、電車と衝突してしまった、という痛ましい事件です。それだけでなく、この事故のために発生した振替輸送費などを、鉄道会社が遺族に対して損害賠償請求し、話題になりました。

 最終的には、最高裁で遺族の損害賠償義務は否定されましたが、高齢者が増え、介護に苦悩する家族が増える中で、この裁判は関係する専門家だけでなく、世間の注目も集めました。

 田村先生からは、ご遺族が介護の為になしうる最大限の努力をしていたこと、また訴訟の重さに諦めることも選択肢であったのに、その意義に応えて訴訟を最後まで頑張りとおされたこと、田村先生と一緒に担当された弁護士が、この事故で遺族が損害賠償責任を負うのはおかしいという強い信念を持って裁判を進めておられたことをお聞きしました。また、認知症患者を考える前提として、医療・介護関係者と、法律関係者との間に差を感じたとのお話しがありました。医療・介護関係者は、認知症患者にとっての最善と、また家族への重い負担の軽減を考える一方、法律関係者は、認知症患者によって何らかの被害が生じるおそれがあるという非常に抽象的な危険性を前提としてしまいがちであるなどのことでした。お聞きしたなかでも特に印象的だったのは、第一審判決の報道を知った多数の医療・介護関係者から、自発的に協力の申出があったとのお話しでした。それだけ,本件事故は、介護現場では逼迫した悩みであるとともに、本件において遺族が賠償義務を負うという裁判所の判断は、現場の感覚から乖離したものであったのだろうと思います。

 裁判所の偏見(?)の中、弁護団の努力も大変なものだったと思いますが、世間的に大事件になってしまい、賛否両論の意見があるなかで今後の認知症社会のために必死で頑張り抜かれたご遺族の真摯な態度にも心を打たれました。

 政府が、認知症患者を6%減するという方針をうちだしていますが、それ以上に現在認知症で悩む患者、その家族にどういった手当をできるのか、また社会として、他人事とせず、患者にとって最善の認識を共有し、ともに住みやすい社会のためにどのように受けとめていくのか、ということが問われていると思いました。

                                     弁護士  東 麗子