医療事故調査制度の欠陥
医療事故調査制度の欠陥
医療法上、「センター調査」(第6条の17第1項)は、医療機関が「医療事故」(「当該病院・・・が提供した医療に・・・起因すると疑われる死亡・・・であって、当該管理者が当該死亡・・・を予期しなかったもの」(第6条の10第1項))に該当すると判断して医療事故調査・支援センターに報告した事例(第6条の17第1項は単に「医療事故が発生した病院等の管理者又は遺族から、当該医療事故について調査の依頼があったときは」と規定するのみであるが厚生労働省医政局長平成27年5月8日付通知(医政発0508第1号)は「医療事故が発生した医療機関の管理者又は遺族は、医療機関の管理者が医療事故としてセンターに報告した事案については、センターに対して調査の依頼ができる。」との限定解釈に基づく運用を各都道府県知事に対して指示する。)で当該医療機関の院内調査結果について遺族が第三者による検証を希望する場合にセンターの個別調査部会・総合調査委員会により行われる調査とされています。従って、医療法上の「医療事故」に該当することが明らかな場合でも、医療機関が自発的にセンターに「医療事故」の報告をしない限り、遺族からはセンター調査を利用することができないという欠陥があります。
未破裂前交通脳動脈瘤につきコイル塞栓術を受けた高齢の女性が心タンポナーデを発症し出血性ショックで死亡した事例につき、死因についての医療機関の説明に不信を抱いた遺族から相談を受けました。
脳神経外科の協力医から、医療機関の病理解剖所見は杜撰で凡そ死因解明の参考にはならず、医療記録のみでは死因を判断できない、第三者であるセンター調査による死因究明の方途を勧める旨意見を聴取しました。そこで、遺族から医療機関に対し、改めて死因の説明を受けるとともにセンター調査の申込を求めることを回答しました。
この遺族からの申し入れに対し、医療機関は、院内調査委員会による調査を行い、プロタミンによるアナフィラキシーショック→DIC→心タンポナーデ→心臓手術後の癒着+予備能力不足(高齢・心臓胃癌手術後)→死亡という院内調査結果と本事例は医療事故に該らないのでセンターへ事故報告しない旨の報告書を遺族に交付しました。
前記のとおり、医療機関が自発的にセンターへの医療事故報告をしない以上、遺族からのセンター調査申込は受理してもらえないため、やむなく、訴訟(鑑定含む)の方向で検討を開始することとしました。その訴訟準備の過程で、事件の進行状況を研究会の例会で報告する機会があり、研究会の事務局長から厚生労働省医政局総務課長通知(医政総発0624第1号)「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について伴う留意事項等について」第二、4に、センターに対して遺族等から相談があった場合、遺族等からの求めに応じて相談の内容等を病院等の管理者に伝達すること、という規定があるので、当該規定に基づいて、センターから病院に対し医療事故の報告をするよう伝達してもらう手段がある旨アドバイスを受けました。
右アドバイスに従い、プロタミンによるアナフィラキシーショックの死亡事故は医療法第6条の10第1項の「医療事故」に該当しセンターに報告されるべき事例であり、医療機関には同法同条同項の「医療事故」としてセンターへ報告する義務の違反があるとして、センターに医療機関へ医療事故報告を促す伝達を求めると同時に、医療機関に対しても、センターへの医療事故報告を求める旨の通知を発送しました。
その結果、医療機関に代理人がつき、センターへ医療事故報告をなすと同時に院内調査を医療事故調査手続に基づく院内調査とするため改めて遺族への結果説明の機会を設けたうえでセンターへの結果報告をし、センター調査手続が開始されるという運びとなりました。
センターへ相談し、センターから医療機関に対して相談内容を伝達してもらうことにより、医療機関からセンターへの医療事故の報告を実現することができた本事例が、今後、ご遺族が医療事故調査制度を利用するうえでの手助けとなればと思い、参考事例として紹介する次第です。
弁護士 山内 容
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