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2020年12月 3日 (木)

新型コロナウイルスと医療事故

 2020年は、新型コロナウイルスが猛威をふるった年でした。「医療崩壊」と言うキーワードがすっかり定着しましたが、我々市民の日常生活にはそれほど影響が現れていなくても、医療制度の方が先に倒れてしまうことがあることが分かり、医療制度の脆弱性が浮き彫りになりました。医療は我々の健康や生活を守ってくれるものだとばかり思っていたのに、逆に、我々市民が医療制度を守るために生活様式を変える日が来るなんて誰が想像していたでしょう。

 さて、新型コロナの影響は、医療事故にも及んでいるようです。

 2020年4月、新型コロナウイルスに感染して兵庫県内の病院に入院していた50代の男性が治療中に容体が悪化して死亡したという件で、医療機器を使用した際に血管を傷つけたという医療事故の可能性が否定できないとして警察が司法解剖を依頼したものの、少なくとも4つの大学が、感染対策が不十分で受け入れが困難などと回答し、最終的に解剖が実施されなかったケースがあったという報道がありました(2020516日/NHK)。

 この報道によれば、法医学教室は全国に約80あり、年間2万件の司法解剖を行っているとのことですが、新型コロナウイルスの感染リスクを考えると、どこも積極的に受け入れるのは難しい状況のようです。

 解剖には、司法解剖(事件性のある変死体の死因を調べる)のほかに、行政解剖(事件性のない変死体の死因を調べる)、病理解剖(病死した場合に遺族の承諾を得て死因を調べる)などがありますが、感染リスクの問題があることは共通です。もし解剖が行われないと死因の特定や治療の適切さが判断できず、医療事故の可能性があっても、立証する材料が不足しているとして訴訟を断念することにもつながってしまいます。そのようなことがないように、解剖現場での感染リスクの問題が改善されることが急務といえます。

                                                                                  弁護士 中村 新造

 

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