医療過誤事件を離れた争いにおけるカルテの記載の証拠価値
逮捕状が出ているのに執行されなかった、という刑事事件の民事事件での争いが、昨年12月に原告女性の勝訴という結果になった。
この事件については、いろいろな人がいろいろな事を言っているのでここで改めて触れるつもりはない。
しかし、原告と被告の両者が日本外国特派員協会で双方とも長時間の記者会見を行い、そのノーカット版を通して視聴したところ、少し気になることがあったので書いてみることにした。
それは、被告側が、原告女性が事件後に受診した医療機関のカルテを根拠に、概略、「ここではドクターに〇〇と言っているのに、裁判上の主張は違う、だから原告女性は嘘をついている。」と言っていたことである。
特に、代理人弁護士は、自分は医療過誤訴訟を専門に扱うが...と前置きしたうえで、上記の発言をしていた。
しかし、私も医療過誤訴訟を専門に扱っているが、カルテ記載と上記裁判上の主張が一致していなくても、別に不自然ではないと思う。
だいたい、患者が受診する際に、症状ではないことについてすべて話すだろうか。いちばん気になる症状や、疾患の話をするのではないか。また、医師の方も、供述調書を作成しているわけでもないのに、患者の話したことを、それも症状ではないことを、すべてカルテに書くとは思えない。その医師が必要があると思ったことのみ書いているのだと思う。
一度、どういう基準でカルテ上”S”(患者の訴えが書いてある部分)の内容を決めているのか、そのうち誰かにお聞きしてみようと思う。
弁護士 羽賀 千栄子