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2019年8月22日 (木)

医療事故における損害賠償

 起きてしまった医療事故は,残念ながらなかったことにはできません。生身の人間に起きた死亡や後遺症について,時計の針を元に戻すことはできません。そして,弁護士がお手伝いできることは,法律上の責任の中でも,基本的には損害賠償金の支払いという民事責任の追及に限られます。つまり,医療事故という重大な出来事の一部分の解決に限定されています。医療事故の被害者(患者本人や家族)の多くは,お金の問題だけではないとお考えになり,それはもっともなことですが,我が国の法律制度の下では限界があります。

このような制約の中で,損害賠償金の支払いと共にできるだけ事実経過の説明と謝罪を行ってもらい,再発防止に努めてもらうように,弁護士は相談者の皆様と共に頑張ります。

 損害賠償金の支払いについて,少しだけ説明させていただきます。被害者にとってはお金の問題だけではないでしょうが,賠償金額の大きさが医療機関の責任の大きさを客観的に示すことになりますので,多くの賠償金の獲得を目指すことになります。損害賠償金額は,個別の損害項目を積み上げていくことによって算定されます。代表的なものとして,①治療費用や介護費用,②休業や死亡や後遺症によって得られなくなった収入,③慰謝料,があります。これらの各項目の金額の算定方法については,事件として数が多い交通事故における賠償金実務によって,ほぼ確立しています。②については,若い人や収入が多い人が多額になります。③慰謝料とは,精神的損害に対する賠償金のことですが,実務上は定額化されており,それを事案に応じて調整します。例えば,一家の支柱(収入を得て家族を養っている父親など)の死亡であれば2800万円が基準とされています。また,重度の後遺症(例えば,神経系統の機能に著しい障害が残り常に要介護となった場合)の被害者本人の慰謝料は2800万円が基準とされています。これらの金額を見て,皆さんはどのように思われるでしょうか。医療事故は交通事故と異なる面があり,弁護士はそれぞれの事案にふさわしい賠償金額を求めて交渉や訴訟活動を行うことになります。

                                 弁護士 上田 正和

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