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2019年7月23日 (火)

過失の推定

医療裁判では、死亡や後遺症という被害が発生したことについて、医師に不注意(以下「過失」と言います)があったことを、患者が立証しなければなりません。患者側代理人にとって、過失の立証は非常に困難な作業であり、過失の立証が不十分であるということを理由に敗訴することは、よく経験することです。

 例外的に「医師の医療行為によって被害が発生したことを患者が立証すれば、それで、一応、医師の過失が推認され、医師において、被害の発生は止むを得ないものであったことの反証をしない限り、医師の過失があったと判断する」(以下「過失の推定」といいます)という裁判例があります。

 有名な裁判として、「ビタミン剤の皮下注射をした結果、注射部位が化膿し、高度の筋萎縮が発生した場合、医師に過失があった」と判断した最高裁昭和32年5月10日判決があります。

 この判決が過失を認定した理由として、「注射した結果、注射部位が化膿すれば、十中八九、医師が必要な注意を欠いたと見てまず間違いないであろう」という高度の経験則の存在が前提になっていると説明されています。

 過失の推定により過失が認められるには、その前提として、上記の様な高度の経験則の存在が必要であることから、その適用範囲も、必然的に制約されるということが指摘されています。しかし、過失の推定により医師の過失を認定した裁判例は珍しくありません。

 患者側代理人としては、過失の推定の適用が可能な事案を受任した場合には、積極的に過失の推定の主張をすべきと考えています。

                               弁護士 伊藤 皓

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