安田講堂事件から50年経って思うこと
1月19日朝、テレビが、東大安田講堂に機動隊が導入された日から50年と報じていました。安田講堂の占拠は、1968年インターン制度廃止を軸とした研修医の待遇改善運動の中で発生した医局員と学生の衝突を理由に大学当局が学生のひとりを誤認処分をしたことが契機ではじまったと聞いております。医療事故研究会は、1969年の安田講堂事件の後、同事件をはじめとする闘いの中で逮捕された学生の弁護をした弁護士と医学部闘争にかかわった医師との間で勉強会をするなかでできました。
それから50年、医師の待遇改善はすすんだのでしょうか。この間、新しい医療機器は開発され、普及しました。医学的研究もすすみました。しかし、東大闘争において問題とされた、研修医や病院勤務の医師の待遇は改善されたのでしょうか。50年前とあまりかわらないのではないかと思います。
アベノミックス政策の一環として働き方改革実行計画案が出されて、平成29年3月28日「働き方改革実現会議」の決定にもとづき、厚生労働省は「医師の働き方改革の検討会」を設置して平成31年1月11日、医師の長時間労働の実態をふまえて「医師の労働時間短縮に向けた取り組み」として2024年4月から医師の労働時間の上限を一般勤務医には休日労働を含めて960時間とする。特例として救急や在宅医療で緊急性の高い医療に対応する全国の施設などに限り上限1900~2000時間を認めるとの案をだしました。この背景には、現実には、緊急性の高い医療を行っている現場の医師は1900~2000時間働いている現実があります。これを特例としないと緊急の現場はまわらないのです。しかし、これでは、医師の長時間労働を是認したことになっても、医師の労働時間を短縮したことにはなりません。緊急の現場で働く医師の不足のなかで、医師の労働時間の短縮をどう実現するか、難しい問題です。
日常の1日8時間の勤務にプラスして休日を含めて1900時間~2000時間残業をするとしたら、どうゆうことになるかざっと計算をしてみました。1年365日は、8760時間です。この内1日8時間寝るとして2920時間、正規の勤務として1日8時間働くとして2920時間、残りが2920時間、このうち1900時間から2000時間残業をするとしたら1020時間から920時間しか残りはありません。これを365日で割ると1日あたり2時間79分~2時間52分、この中には通勤時間も含まれます。通勤時間を引いたら、食事、入浴時間など生活に最低必要な時間しか残りません。他に何かをしようとしたら睡眠時間を削るしかありません。患者に直接接する医師に時間にゆとりのある生活の保障がなければ、本当に良い医療は行われません。一部の医師の犠牲的長時間の働きにより維持されている日本の医療の現場の改善が必要です。医学部の受験において、男女差別を行った大学を擁護するつもりはありませんが、卒業後、長時間でも自由に働かせることができる男の医師を附属の大学病院に勤務させたいとの大学の本音もわかります。しかし、問題は、一部の男の医師、に、犠牲を強いて働かせることではなく、ゆとりをもった時間がもて、男、女ともに平等に働ける勤務体制をつくることです。
亡くなった原因は別ですが、私は、自分の時間をさいても、良心的な活動をされていた医師が、若くして亡くなつたケースに何件かであっています。
政府は、ライフワークバランスとの名のもとに、働き方改革のキャンペーンをしていますが、企業側の要求ではなく、本当に働く者のことを考えているのか疑問に思っています。
弁護士 伊藤 まゆ
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