ガイドラインを踏まえた上での個々の患者に即した治療の重要性
医療事故研究会においては、定期的に、講師の方をお招きしてお話をお伺いし、会員の知識研鑽を行っております。
先日は、消化器外科のドクターをお招きし、お話を伺う機会がありました。
そのお話の中で、「ガイドライン」に従った治療と、個々の患者さんの身体状態に即した治療との間で、医師として悩む場面があるとのお話がありました。
「ガイドライン」とは、「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量し、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、患者と医療者の意思決定を支援する文書」などと定義づけられていますが、もっと簡単に述べると、さまざまなデータ等を踏まえて専門家が議論をし、有効性と安全性を検討した上で、望ましい治療法あるいは標準的な治療法を示したものであり、各学会から発表されています。
このようなガイドラインがあることによって、医師の学習や経験によるばらつきを解消し,場所等を問わず標準的な治療を受けられるようになりますから、患者にとって、とても重要なものといえます。
しかしながら、例えば「癌」という病気であることは共通であるとしても、その身体状態や併存疾患の有無等は、患者ごとに全く異なっています。そして、ガイドラインは、そのような個別の状態にまで配慮したものとはなっていません。
ですから、現場の医師としては、ガイドラインを踏まえつつ、個別の患者さんにとってベストな方法を模索することになり、この点にとても悩み、心を砕くというお話でした。
このように個々の患者の状態に心を配ってくれる医師がいてくれるということは、患者としてとても心強いことだと思います。
ただ、患者としては、果たして自分の主治医がどのような考えに基づいて治療を行っているのかという点は、直接医師から話を聞かないとわからないことだと思いますし、その点について医師と患者との間に共通認識がない場合は、それが紛争の原因となる可能性が高くなってしまいます。
ですから、患者として、あるいは患者の家族として、何か治療方針に疑問があるという場合には、積極的に医師とお話をして、疑問を解消されることをお勧めいたします。
弁護士 大城 季絵