大川小津波判決と過失判断
東日本大震災の際,宮城県の石巻市立大川小学校で,74人の児童と10人の教職員が津波の犠牲になる悲劇がありました。児童の遺族が県や市に損害賠償を求めていた裁判で,10月26日,仙台地裁は遺族に約14億円を支払うよう命じる判決を言い渡しました。
この裁判では,児童の安全に配慮するべき立場にあった教員らに過失があったかどうかが問題になりました。裁判における過失判断は,「予見可能性を前提とした結果回避義務違反があるか」という形でなされます。今回の判決は,同小は津波の浸水予測区域に含まれておらず,過去に津波が同小まで来たこともなかったので,事前に津波の襲来は予見できなかったと認定し,地震直後における予見可能性は否定しました。しかし,地震から40~50分が過ぎた午後3時30分ごろには,市の広報車が津波の襲来と高台避難を呼びかける放送をし,教員らもこれをも聞いていました。判決は,それを理由に,同時点での予見可能性を肯定する判断をしました。その上で,直ちに児童を学校裏山の高台に避難させるべきであったという結果回避義務を認定し,これに反した教員らの過失を肯定したのです。
さて,裁判における過失判断の構造は,医療訴訟においても同じです。医療訴訟では,医師に,予見可能性を前提とした結果回避義務違反があるか,が争点になります。そして,ある時点では,悪しき結果を予見して対処することは確かに無理であったが,この時点に至れば予見は可能であり,結果回避措置(例えば緊急手術)を取るべきであった,というのは,医療訴訟の典型的パターンの一つです。今回の大川小津波判決と医療訴訟では,前提事実は異なりますが,過失判断において共通する点があるのです。大川小津波判決は,近いうちに判例雑誌に登載されるでしょうから,是非,内容に学んでみたいと思います。
弁護士 武谷 元
医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net
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