病院内における転倒・転落事故について
高齢者等の病院に入院中の患者が、転倒・転落による傷害を負い、場合によっては死亡するというケースがあります。病院には、入院患者の転倒・転落を防止する衛生管理上の義務があるとされており、患者の転倒・転落についてその防止義務違反を理由に損害賠償請求がなされることもあります。
転倒・転落事故については、病院において当該患者が転倒・転落により傷害を負うことが予見できたかということがよく争点になります。裁判例においては、事故前にも転倒・転落が起きていた場合や、認知症、脳梗塞などによる見当識障害などが認められ、その具体的な症状から、医師や看護師の指示内容が理解できず、あるいは一旦は理解できても失念して危険な行動をとってしまうことが予測できるなど、転倒・転落の危険を予見できる事実があった場合などにおいて、転倒に関する予見可能性が認められると判断されたものがあります(東京地裁平成14年6月28日判決など)。他方で、事故前に転倒・転落を予見させる出来事がなく、患者に判断力や理解力がある場合には、患者が高齢であるとか、移動等で介助が必要であるなどの潜在的な危険が主張されても、予見可能性は否定される傾向にあります(広島高裁岡山支部平成26年8月22日判決など)。
このように、転倒・転落事故における現在の裁判例では、転倒・転落の危険を予見できる具体的事実の有無がポイントとなっているようですので、単に高齢であるとか、見当識障害があるといった一般的な事情だけでなく、具体的なエピソードを踏まえた主張・立証が必要であるといえます。
弁護士 石丸 信
医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net
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