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2015年1月 6日 (火)

診療録の任意開示と証拠保全

昨年11月のブログで,佐藤淳弁護士が,証拠保全の現状を分かり易く説明して下さいました。そのなかで,診療録の任意開示が一般的になってきたことが触れられていました。

おそらく,医療事故に取り組む多くの弁護士は,証拠保全を申し立てる件数が減って,任意開示で入手した診療録を基に医療事故の問題点を検討する件数が増えていると感じているのではないでしょうか。

現在では,任意開示を拒否する病院はほとんどないと思われますし,証拠保全の費用(証拠保全では弁護士費用の他に,裁判所に納める印紙代,診療記録を撮影・複写するための業者を手配する費用等がかかります。)を考えると,患者又はそのご家族が診療録を入手して,それを弁護士が拝借して検討するという手続の流れは,理に適っている面が多分にあると思います。

あるベテランの弁護士は,「いま,証拠保全はほとんどやっていない。患者の費用負担を軽減する意味でも任意開示が優れている。」という趣旨のことをおっしゃっていました。

私も,診療録を入手するときの手続として,原則は任意開示であり,例外的に証拠保全という感覚を持っています。

ただ,一方で,証拠保全に踏み切るべきときもあると感じています。

病院側は,患者が診療録の任意開示を求めてくれば,過誤を疑われるような不利益な診療録は隠したいという心理が芽生えることが考えられ,その心理があるがゆえに,たとえ意識的ではないとしても,診療記録を複写する際の落丁などの事態が発生する可能性を排除できないと思うのです。この点,証拠保全であれば,裁判官や弁護士が立ち会って診療記録を検証しますので,複写の際の落丁ということはほとんど想定できません。

そこで,私は,死亡や重篤な後遺症のある重大な医療事故であること,医師側の事故に対する説明がない又はあっても不十分であること,という二つの条件がある場合には,証拠保全を申し立てることが適切であろうと思っています。

さて,いざ証拠保全を申し立てても,裁判官が,なかなか証拠保全の必要性を認めてくれないことがあります(佐藤淳弁護士のブログに書いてあるとおりです。)。裁判官の指摘に応じて,証拠保全の必要性を補充すれば,多くの場合,証拠保全決定がなされますが,時には,証拠保全が認められないこともあります。弁護士は,裁判官の話しぶりから,証拠保全が認められる可能性が低いと判断すれば,却下決定を出される前に,申立てを取下げてしまうことがほとんどのはずです。申立てを取下げた後,裁判所を変えて再度申立てをするというツワモノもいるようです(提訴前の証拠保全の管轄裁判所は地裁又は簡裁のいずれかですので(民訴法2352項),地裁での申立てを取り下げた後,改めて簡裁に申し立てるということは可能です。)。

                                      弁護士 鶴田 信紀

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