手術時の体内異物残存において高額の慰謝料が認められた事例
医師が、手術時に、患者の体内にガーゼなどの異物を残してしまったということがときどきニュースで報じられますが、今年の4月、さいたま地裁で、手術中に心房内に医療用縫合針が残存し続けている事案において、700万円という比較的高額な慰謝料が認められた判決がありましたのでご紹介します(さいたま地裁平成26年4月24日判決〔判例時報2230号62頁〕)。
判決文によると、医師は、手術後すぐに針の探索のために心房を切開する手術を行ったが、針の発見には至らず、針はその後右心房から下大静脈、肝静脈に移動したとのことです。判決は、針が肝静脈にあることについて、今後肝臓から突出するような事態は想定し難く、今後針の移動可能性も低く、医学上、針が原告に日常生活上、医療行為上の制約を及ぼしたり、感染を起こす可能性はない、又は低いと認定した上で、それでも、自己の肝臓の中に針という鋭利な金属製の物質が遺残され存在し続けていることの恐怖感が大きいこと、針を摘出するには肝臓を40%切除する必要があること、針の摘出のための余分な手術を受けざるを得なかったこと等の事情を認定して、慰謝料を700万円と認定しました。
本来、異物が体内に残存してしまったとしても、そのことについて医学的な影響が認められなければ、それほど高くない慰謝料しか認められないことが多いのですが、本件では、一般人の感覚として鋭利な物質が肝臓内に遺残しているということへの不安等を考慮して高額な慰謝料が認定されているという点で、参考になる裁判例であると思います。
弁護士 石丸 信
医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net
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