« 出産後母子同室に起因した事故について病院の責任が認められた事例 | トップページ | 医療事故調査・支援センター »

2014年8月 8日 (金)

A i (死亡時画像診断) について

入院中の患者のご家族から、医療過誤ではないかと思っているが、亡くなった場合に解剖をした方がよいだろうか、といった質問を受けることがある。患者の遺体に残された痕跡を記録に残すうえでは、解剖をした方がよいことは間違いない。しかし、そのような質問には、遺体を傷つけたくないというご家族の思いが込められている。

 

医療事故研究会の例会でAiについて一般財団法人Ai情報センター(http://autopsyimaging.com/)理事長の山本正二医師にご講演いただいた。医療事故とも関係があると考えられるので、簡単に紹介したい。

Aiとは、Autopsy Imaging(死亡時画像診断)の略であり、屍体をCT撮影(MRI撮影による場合もあるが少ない)することにより、画像から死因を究明する方法である。近時は、死因究明2法の施行もあって普及が進んでいる(死因究明等の推進に関する法律66号に「死亡時画像診断」が挙げられている。)。

Aiは、対象がすでに亡くなった屍体であり、医療目的とは異なって、放射線の過量照射の心配がないことから、極めて薄いスライス(1mmのことが多い)で爪先から頭のてっぺんまで全身をCT撮影することによって、細部にわたって画像により死亡時の状態を画像により把握する。そして、解剖の場合は、保存される部分が限られるのに対して、Aiでは、全身に及ぶ全てのCT画像について長期にわたる保存が可能であるというメリットがある。時間が経過してからでも、当初検討しなかった部位を含めて画像を再検討することができ、しかも第三者による客観的評価が可能となる。

解剖では、切開しない部位以外の情報がないという制約があり、遺体に空気が存在した場合に切開してしまえばわからなくなるという問題もあって、気づかれなかった問題点がAiで発見できることも少なくない。他方、Aiではわからないこともあり、消化管穿孔では、あることがわかっても場所を特定できない場合がある。

その意味では、CT撮影と解剖の両方を行えば万全といえるが、その場合、CT撮影が先行しなければならないのは言うまでもない。ことに司法解剖される可能性のある場合には、多くの場合解剖結果を知るまでに長期間を要し、いつまでも情報が得られないこととなるから、まず亡くなった病院にCT撮影を依頼することが肝要と思われる。

 

最近はAiを実施している病院が増えており、亡くなった病院でも記録を残したいと考える場合がある他、依頼によりCT撮影をしてもらえる場合があるから、まず亡くなった病院に依頼するのがよいようだ。この場合は、入手したCT画像をAiの専門家に読影してもらうことになる。亡くなった病院でCT撮影に応じてもらえない場合は、遺体の搬送から撮影および読影まで一括して行うことが出来るAiセンター新木場(http://ai-center.or.jp/centers)が20144月に開設され、過大な費用をかけずに、CT撮影から専門家による読影までしてもらえるとのことだ

Aiを利用するにあたって注意が必要なのは、遺体のCTの読影は、生体のCTの読影と異なり、遺体のCT読影に独自の経験を要するということだ。死後の変化を読み誤ってはならないので、遺体のCT読影について経験を積んだ医師による読影が必要とされるわけである。

 

Aiは、解剖と違い、遺体を傷つけない方法で死亡時の遺体の状態を長期間保存できることは大きなメリットだ。遺族としては、解剖に抵抗がある場合でも、CT撮影なら抵抗が少なく、死亡時の病態を把握するする手段として受け入れやすい。Ai情報センターの山本正二理事長は、Aiについての知識が浸透してきて、Ai情報センターに対する依頼が増加してきたと話しておられた。医療事故にたずさわる弁護士として、これまで解剖しか考えられなかった、死亡時の状態の記録として、Aiは重要な証拠確保の手段であると同時に、医療事故とはいえない場合を早期に判別して紛争を避けるうえでも重要な役割を果たしうる手段だと考える次第である。

                                                                         弁護士 阿部 裕行

医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

« 出産後母子同室に起因した事故について病院の責任が認められた事例 | トップページ | 医療事故調査・支援センター »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: A i (死亡時画像診断) について:

« 出産後母子同室に起因した事故について病院の責任が認められた事例 | トップページ | 医療事故調査・支援センター »