医療事故研究会通信 コラム欄から
...思えば、技術開発の発達はめざましいものがあります。私が医療裁判に関与しはじめた頃は、CTやMRIなどはありませんでした。DNAの存在など誰も知らない。肝炎もA型とB型までで、それ以外は非A,非Bと言っていました。検査というと未熟児網膜症の眼底検査が印象に残っています。裁判を提起した症例では、医師が懐中電灯をてらして眼底検査をしていたように記憶をしています。光凝固の学会発表前の症例で有効な治療方法はなく、定期的な眼底検査と酸素濃度の調節が適切に行なわれたかが争点でした。眼底検査には、医師の経験と能力が必要でした。今では、簡単に眼底の様子を映像として写しだすことができるカメラができています。
かつて、内視鏡手術により腸を傷つけた裁判において、腸を傷つけたことを認めながら、それを医療ミスとは認めず、内視鏡手術に内在する危険であり、患者は内視鏡で手術をすることに同意した以上、その危険は負担すべきであると主張した病院がありましたが、被害者の立場にたてば到底納得できることではありませんでした。
だけど、危険を内在する新しい手術や治療について、失敗したらすべて医者のミスとして医師や病院に賠償責任を負わせるということも、新しい先端的医療に取り組もうという医師の意欲をそぐものであることもわかります。この調整をどうしたらよいのかと、改めて考えました。
医師に過失があるか、ないかに関係なく、患者に被害が生じた場合に、一定程度の補償をするという保険制度をもうけている国があると聞きました。それも、解決のひとつかも知れません。若いみなさんに考えてもらいましょう...
弁護士 伊藤 まゆ
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