2019年1月 8日 (火)

医師と弁護士,専門職として成長する責任

  もう30年以上前,司法研修所を卒業する直前に,公式の日程として,教官や同期生との会食の機会があった。私と同じテーブルにいた裁判官として任官予定の女性修習生が,「これからも毎日勉強で大変だ。」と,少し冗談めかして発言した。するとそれを聞いていた裁判官の教官が,「毎日勉強を続けることと,後進を指導することは,専門職として当然のことだ。だからこそ専門職なのだ。」との趣旨のことを言った。

 その後数年して,上記女性裁判官が研修で東京に来た際,拙宅に泊まり,四方山話をする中で,「裁判官より弁護士の方が育成に時間がかかるって部長(法廷では裁判長)が言ってた。10年はかかるって。羽賀さん,大変だね。」と言った。私は,当時(今も)は,文字通り成長の途上にあったから,「なるほどね。」と聞いていた。

 その後,ご家族が医療過誤に遭われた医師が依頼者となった事件があり,せっかくなので,被告側証人の医師の証人尋問の中,短時間だが直接尋問してもらった。証人の医師が,ご自身に相応のキャリアがあるとの趣旨の答えをした際,私の依頼者である医師が,「そうは言っても最初の10年のローテート(勤務する病院や診療科を異動すること)の仕方により,同じキャリアでも全然違う。」と反論した。

 やはり10年である。最初の10年が特に大切というのは,医師も弁護士も共通らしい。

 ただ,冒頭の裁判教官の話のとおり,専門職として仕事をするからには,日々の勉強を怠ることはできない。

 日頃医療過誤事件を担当して,病院に行けば治って当たり前,悪い結果になれば医師のミス,と考えている方があまりにも多く,医療機関は大変だなあ,と思っている。もちろん,そうした方々に対しては,きちんとそうではない旨説明している。

その点,訴訟に限って言えば,どちらかに悪い結果となるのは最初から分かっているので,弁護士の方が力量不足が分かりにくいかもしれない。だからこそ,なのであるが,自らをきちんと育てていくことは大切だと思う。残念ながらそうではない弁護士の仕事ぶりを,最近身近で見て驚いたことがあったので,改めて考えてみた。

しかし,自分は違うと言えるのか,答えを考える前に,そうならないよう前進するしかないだろう。この仕事を続けていくというのならば。

 医療過誤に遭ったと思っておられ,専門職に失望し,それでもこれから弁護士を探さねば,と思っておられる方に,弁護士はこんなことを考えているという参考になれば。

                                     弁護士  羽賀 千栄子

2018年7月31日 (火)

ガイドラインを踏まえた上での個々の患者に即した治療の重要性

医療事故研究会においては、定期的に、講師の方をお招きしてお話をお伺いし、会員の知識研鑽を行っております。

先日は、消化器外科のドクターをお招きし、お話を伺う機会がありました。

そのお話の中で、「ガイドライン」に従った治療と、個々の患者さんの身体状態に即した治療との間で、医師として悩む場面があるとのお話がありました。 

「ガイドライン」とは、「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量し、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、患者と医療者の意思決定を支援する文書」などと定義づけられていますが、もっと簡単に述べると、さまざまなデータ等を踏まえて専門家が議論をし、有効性と安全性を検討した上で、望ましい治療法あるいは標準的な治療法を示したものであり、各学会から発表されています。

このようなガイドラインがあることによって、医師の学習や経験によるばらつきを解消し,場所等を問わず標準的な治療を受けられるようになりますから、患者にとって、とても重要なものといえます。 

しかしながら、例えば「癌」という病気であることは共通であるとしても、その身体状態や併存疾患の有無等は、患者ごとに全く異なっています。そして、ガイドラインは、そのような個別の状態にまで配慮したものとはなっていません。

ですから、現場の医師としては、ガイドラインを踏まえつつ、個別の患者さんにとってベストな方法を模索することになり、この点にとても悩み、心を砕くというお話でした。

このように個々の患者の状態に心を配ってくれる医師がいてくれるということは、患者としてとても心強いことだと思います。

ただ、患者としては、果たして自分の主治医がどのような考えに基づいて治療を行っているのかという点は、直接医師から話を聞かないとわからないことだと思いますし、その点について医師と患者との間に共通認識がない場合は、それが紛争の原因となる可能性が高くなってしまいます。

ですから、患者として、あるいは患者の家族として、何か治療方針に疑問があるという場合には、積極的に医師とお話をして、疑問を解消されることをお勧めいたします。 

                        弁護士 大城 季絵

2018年1月30日 (火)

医療過誤訴訟の地方出張

私が医療過誤訴訟を手掛けるようになったのは,弁護士になり最初に就職した事務所が合わずに1年で退職した後に,紹介された事務所が,医療過誤を多く扱っていたからである。

 それまで,医療過誤事件に特に興味があったわけではないが,勤務弁護士としてまじめに仕事はしていたと思う。医療事故研究会は,所長が色々な弁護士と組んで仕事をした方が良いと入会を勧められた。

その事務所も地方の方から医療過誤事件の依頼を受けることが多く,所長と一緒に北海道や山形へ出張した。そして,所長が出張を楽しむ方だったので,高級温泉旅館などの宿泊が伴った。しかし,宿泊の多くは出廷時間の関係で前泊だった。所長の方針で就職した直後から医師の証人尋問を担当していた私は,成功する目処も立たない中,緊張していてあまり楽しめなかった。

しかし,その後一人で出廷するようになると,所長からは翌日観光してきても良いと言われ,事務所の費用で豪華な観光旅行もさせていただいた。

当時は弁護士になり2,3年目だったので,弁護士の仕事のペースがあまりわかっておらず,弁護士はこうして優雅に仕事をするものなのか,とも思ったが,根がワーカホリックなので,あまりしっくりこなかった。

その事務所には4年いた後,独立して現在に至るが,独立後,宿泊を伴う地方出張は,医師の都合で医師との打ち合わせと証人尋問が別々の日になってしまったときの一度だけであったと思う。

日本全国日帰りできない所はないと思うし,高知の午前10時の法廷も,暗いうちから当日行った。

しかし,一昨年新潟の方から医療過誤事件を頼まれ,何度か新潟地裁へ通ってから,もう少しゆっくりするのもいいかな,と思うようになった。

新潟市は私の出生地で,生後数年間住んでいた。そのせいで,そこの空気が懐かしく,そこでの時間が心地よかった。帰りの駅で見かける笹団子も,祖母から良く送ってもらったな,とか思いを馳せ,繁華街を通ると,幼い私はここを歩いたことがあるのだろうか,などとあれこれ考えた。

幸か不幸かその訴訟は数か月で和解となったが,その依頼者の紹介の方の事件で来月また新潟へ行く。

たぶん私はまたすぐ事務所に戻り,カリカリ仕事をするのだろうが,懐かしい場所で優雅な1日を過ごす可能性も残しておきたいと思っている。

                   弁護士 羽賀 千栄子

2017年12月 5日 (火)

証拠保全の事由について

最近、証拠保全の申立てを行いました。証拠保全は、医師や医療機関によりカルテが改ざんされるおそれがあるような場合に行うもので、代理人弁護士と裁判官らが医療機関に赴いてその場でカルテ等の開示を受ける手続です(医療機関は、証拠保全手続が行われる1時間から1時間30分くらい前に初めて証拠保全手続が実施されることを知らされます。)。

証拠保全の申立てにあたっては、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」(民事訴訟法234条)を疎明しなければならないとされています(民事訴訟規則1533項)。

この「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」とは、証拠(カルテ等)の廃棄、紛失、改ざん等のおそれがある場合を意味し、ここでいう「おそれ」は、一般的・抽象的なものでは足りず、個別的・具体的なものが必要とされています(東京地判平成10827日等)。

具体的には、①医師に改ざんの前歴がある、②医師が患者側から診療上の問題点について説明を求められたにもかかわらず相当な理由なくこれを拒絶した、③前後矛盾ないし偽の説明をした、④ことさらに不誠実又は責任回避的な態度に終始した等の事実をもとに、改ざん等の具体的なおそれがあると主張していくことになります(広島地決昭和611121日。その他、東京地裁の裁判官が執筆されている『証拠保全の実務』など)。

弁護士としては、以上のような裁判例や実務の運用を前提として、ご相談者が医療機関に対して不信感を抱くに至った経緯や理由などを確認し、改ざん等の具体的なおそれがあるといえそうかどうか検討することになります。

最近は、電子カルテシステムを利用している病院も多いように思いますが、電子カルテについても改ざんが可能な場合があり、「一般論としては、電子カルテであることのみを理由にして、改ざんのおそれの存在を否定するのは難しい」(『電子カルテの証拠保全について』判例タイムズ13298頁)と言われています

ですので、電子カルテの場合も含め、改ざん等の可能性があると思われる場合は、その旨ご相談いただければと思います。

                                           弁護士 品谷圭佑

2017年11月 2日 (木)

全国交流集会

1027日、28日に、「医療問題弁護団・研究会 全国交流集会」が東京で開催されました。

Drphoto20171027_3 当研究会からは、専門家の医師をお招きして「高齢者に潜む怖い障害 廃用症候群」という演題でご講演いただいた後、当研究会会員の弁護士から高齢者特有の医療リスクや高齢者の手術適応、検査、薬剤投与等に関する裁判例を報告しました。

私も報告者の一人として関与しましたが、具体的な事件を離れて、あるテーマについて裁判例等を調査・研究する時間はなかなか取れないこともあり、今回は勉強する良い機会をいただいたと思っています。

今後もこうした活動に積極的に取り組み、研鑽を積みたいと思います。

 弁護士 品谷圭佑

 

 

2017年9月21日 (木)

全国交流集会について

 毎年1回、本研究会のような、全国各地にある医療事故問題をあつかう弁護士の任意団体が集まって交流集会を開催しています。交流集会では、各地の医療問題を扱う弁護士が集まって、テーマを決めて研究発表したり、意見交換をしたり、あるいは、医師を招いて、専門的な話をうかがったりしています。開催地は、その年ごとに異なるのですが、今年は東京で行われ、本研究会からも発表を行います。テーマは、日本の高齢化にともなって、最近テレビなどでも話題になっている老人性廃用症候群の他、高齢者の医療事故などについてです。老人性廃用症候群について専門家の医師をお招きしてご講演いただくとともに、研究会所属の弁護士らが高齢者の医療事故裁判例などを調査した結果を発表します。このように、当研究会では、全国の弁護士らと協力して、幅広く研鑽をかさね、相談に来られた方に的確な対応ができるようにしています。

                          弁護士 東 麗子

医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

2017年8月25日 (金)

医療水準について

先日、体重1500グラム以下の状態で人工心肺の装着を受け、その後、生後半年ほどで再度人工心肺装置を装着した上で心臓の手術を受け、無事退院したというニュースに触れました。

大切な命が救われたことは大変喜ばしいことであり、なにより、ご両親をはじめとするご家族の気持ちを思うと、よかったなあと心から思います。

そして、同時に、医療・医学の進歩に驚かされ、とても感心しました。

体重が1500グラム以下の赤ちゃんについては「超低出生体重児」とよばれていますが、「生出生体重児」といわれる、いわゆる標準的な赤ちゃんの体重が2500グラム以上4000グラム未満であることを考えると、かなり小さな赤ちゃんであることは、お分かりいただけると思います。そのような体の小さな赤ちゃんの、しかも心臓の血管の手術を、人工心肺を装着する形で行うことが可能になったわけですから、医学の進歩は目覚ましいものだと思います。

ただ、新規の治療法を受ける場合には、一定のリスクが存在することも事実ですし、患者の立場に立てば、「自分が受診した医療機関が、新規の治療法を前提にして診療を行う義務を負っているのか」、「新規の治療法を前提にして診療が行われていれば病気が治癒していたのではないか」という点が気になるところではないかと思います。

この点問題になるのが、医師の注意義務の基準となる「医療水準」です。

この医療水準に関し、判例では、「ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり,右の事情を捨象して,すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。そして,新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており,当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には,特段の事情が存しない限り,右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである。」と判示されています(最二小判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁)。

なかなか分かり難いかもしれませんが、上記判例の内容をごく簡単に述べると、医療水準は全国一律に決まっているわけではなく、平均的医師が現に行っている医療慣行のとおりに治療を行ったからといって必ずしも医療水準を満たしているわけではない、医療水準に関しては、医療機関の性格や所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して判断すべきであるということです。

患者さんにとっては、病気が治癒し、なにも問題が発生しないことが一番ではありますが、もし、皆様のなかで、ご自身の治療方法等に疑問をお持ちの方がいらっしゃいましたら、当研究会でお話をお伺いすることもできますので、ご連絡ください。

                                 弁護士 大城 季絵

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2017年8月 8日 (火)

医療事件の個別性について

1. 法律事務家である弁護士の業務の中心は、個別・具体的な案件(例えば、AさんとBさんの間で、〇〇〇〇をめぐって紛争となっている。)を解決するというところにあります。最近は、企業法務や社外取締役等において、やや一般的な法的スキームに関わることも増えていますが、その場合にも、会社ごとや案件ごとの個性があります。

2. 医療事件についていえば、案件ごとの個別性の程度(事案による違い)は、他の案件よりもさらに大きいと感じられます。1人ひとりの身体の状況(病状)や、それに対する医療措置、その後の状況の変化は、決して同一ではありません。医療技術の進歩と医療の細分化がこれに拍車をかけています。

 従って、医療事件を何年も取り扱っていると、多少は蓄積ができてきますが、その都度、新鮮な気持ちで取り組まなければなりません。

 相談者の中には、「新聞で私の親と同じケースについて病院の責任が認められていた。」とおっしゃる方がおられ、そう思うのも無理はありませんが、弁護士としては、案件ごとの個別性を分かっていただいた上で、相談者と共に戦っていくことになります。

                  弁護士 上田 正和


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2017年6月13日 (火)

無痛分娩の訴訟に関する報道

昨日来、京都府の産婦人科で無痛分娩の施術ミスにより重度障害を負ったとして、患者の夫らが医院に対し、損害賠償請求訴訟を提起したとの報道がなされています。

報道から読み取れる情報を基に考えると(私が読んだのは読売新聞、京都新聞、産経新聞及び毎日新聞のいずれもインターネット版です。)、(1)麻酔針が硬膜を破ってくも膜下に達したのか、(2)麻酔薬の投与量が多すぎたのか、(3)(1)又は(2)の事実があったとして、それらは)医師の注意義務違反によるものかが主たる争点になって審理が進行していくのだろうと思います。

私は、無痛分娩の大まかなメリット・デメリット、海外での実施例が多いものの日本ではあまり浸透していない状況にあるという程度の知識しかありませんので、踏み込んだ考察はできませんが、この訴訟で問題となっているのは、医療行為を巡り医師・医院側に「ミス」があったか否かですから、無痛分娩のリスクそのものの判断とは分けて考えることが肝要と思います。

無痛分娩には、産婦に対するダメージが少なく産後の早い社会復帰が望めるため、特に仕事をしながら出産・育児をする女性にとって大きなメリットがあると聞きます。今回のような報道がなされることによって、重大事故が多いという不確かなイメージが先行して、産婦の選択肢が狭まってしまうことは好ましい状況ではありません。

無痛分娩に限らず医療一般にいえることですが、患者側が医療行為を選択する場合、選択した医療行為によってもたらされるメリットと、その医療行為のリスクの要因と程度を、専門家としての立場ではなく患者の立場として、総合的に考量して判断する必要があると思います。

                                                 弁護士 鶴田 信紀

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2017年2月17日 (金)

医療裁判こぼれ話

 医療裁判では,高度で専門的な医学の知識が必要とされます。

 当然,医療過誤事件を担当する弁護士もその分野の文献や資料に接して一生懸命勉強しますが,多くの弁護士はやはり医者ではないため,限界があります。

そこで,患者側の立場に立って医学的な意見を述べていただける協力医の存在が不可欠になります。

 具体的には,患者及びご家族の依頼を受けて医療過誤の可能性について調査する段階での意見,裁判段階での私的な意見書の作成,また,病院側の医師の主張に対して意見を頂戴し,場合によっては証人尋問を受けていただくこともあります。

 このように,医療裁判を進めるにあたっては,協力医との信頼関係と友好関係の構築が非常に重要となりますが,そのように考えると,医療裁判を手がける弁護士にとっては,医療裁判そのもののスキルのほかに,いかに良い協力医に巡り会うことができるか,医師との人脈作りも非常に大切であることを痛感させられます。

 この医師との人脈作りは,まだ自分は全く不充分ですので,医療事故研究会での活動を通じて,医師との人脈もどんどん開拓していきたい,と思っています。 

                  弁護士 松井 創 

医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

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