2025年10月24日 (金)

追悼文 前代表森谷和馬弁護士を悼んで

20年以上にわたり当研究会の代表を務めてこられた森谷和馬(もりやかずま)弁護士が、
2025年3月13日に逝去されました。
患者側代理人として多くの事件を担当されながら、
医療訴訟の改革や後進の育成にも尽力されました。
謹んで森谷弁護士のご冥福を心からお祈り申し上げます。

森谷弁護士のご逝去を悼み、会員からの追悼文を掲載させていただきます。
(下記会員名をクリックしていただくと文書が開きます)

伊藤 皓 会員 追悼文
上田正和 会員 追悼文
榎園利浩 会員 追悼文
武谷 元 会長 追悼文

***故森谷和馬弁護士のプロフィール***
 

1950年生まれ

1976年弁護士登録

「患者の権利法をつくる会」常任世話人
「医療事故情報センター」理事

2025年逝去

【原告代理人として取り扱った著名な訴訟事件として】

・注射による大腿四頭筋短縮症事件
・クロマイ薬害事件
・六価クロム労災事件 など

 
【医療・法律関係の著書・論文として】

『医療・法律カウンセリング-患者学入門』  (1993年・有斐閣)
「医療事故相談の際の事実調査・確認」、「診療記録の証拠保全」、
「医療事故訴訟の提起」(『民事弁護と裁判実務6 医療事故・製造物責任』 (1996年・ぎょうせい)
『50の医療事故・判例の教訓』共著(2004年・日経BP社)
『STOP!医事紛争』共著(2007年 メディカルクオール社)
「患者側代理人からみた鑑定」(『専門訴訟講座④ 医療訴訟』2010年・民事法研究会)

その他
「日経メディカル」のコラム
「医事紛争予防学」欄 など

 

 

03-5775-1851

電話受付:火・木・金 13時~15時
初回法律相談料無料(1時間)で受付中 お気軽にお電話ください。

2025年1月17日 (金)

正しくおそれるということ

新型コロナが5類に移行してから2年近くが経過しました。

街中ではマスクをする人も減り、私自身の身の回りでも、飲食をする機会が増えた気がしております。

ただ、知り合いのドクターに聞くと、決して大幅に新型コロナの罹患者が減ったというわけではなく、インフルエンザやマイコプラズマ肺炎と共に新型コロナも増加傾向とのことでした。

やはり、安心しきってはいけない、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ではいけない、と思っていた折、コンゴで原因不明の病気が流行し、多数の死者が出ているとのニュースに触れました。

現時点では、どのような病気なのか、未知のウイルスによるものかといった点は不明であり、調査が行われているとのことですが、このニュースに触れた時に、「またパンデミックが起こるのか」と一抹の不安を感じた方も多かったのではないでしょうか?

 

自分の知らない出来事が起こる、しかも、それが生命にかかわることである、となると、人々が漠然とした恐怖を抱くのも仕方のないところです。

ただ、根拠もなく過剰に恐れるだけでは、社会生活に支障が発生しますし、場合によっては、行き過ぎた対応のために、他者に対する過度な関与・侵害につながってしまう可能性もあります。

 

つまり、発生している出来事を医学的・科学的に判断するとともに、対応の妥当性に関しては、事後的に検証・総括を行うということが、「正しく恐れる」ことの前提になるのではないか、と思います。

その意味において、日本において、現時点で十分な検証が行われているとは言えません。

今後、私たちが「正しく恐れる」ことを知るためにも、政府には、行われた新型コロナ対策に関して、十分な検証を行ってもらいたいと思います。

                                            以上

                          弁護士 大城 季絵

2024年11月15日 (金)

医療事件に取り組みながら思うこと

1 医療事件(医療過誤事件)に取り組むようになってから25年以上が経ちます。 私は,医療事件以外の案件の取扱いも多いですが,医療事件に取り組む際に思うことを,(整理されていませんが)感想文的に述べさせていただきます。

2 「案件ごとの個別性」が大きいこと

  弁護士が取り扱う業務は,紛争案件であるか否かを問わず,同じものはありません。全く同様の案件のように見えても,どこかに違いがあり,また依頼人の個性や価値観も様々です。

 その中でも,医療事件はとりわけ個別性が大きいと思います。人間の身体に起きたことを問題にしますので,患者の年齢・病歴・症状,そして具体的な医療行為とそれによる変化は人によって異なります。また,医療機関によっても対応は異なります。案件の進行においても,医療機関による説明の内容・程度,それを踏まえた対応(示談交渉や訴訟における要求内容等)は区々で,その都度,依頼人と相談しながら慎重に進めることになります。

3 相談者(依頼人)の「期待と解決(案件の終了)のズレ」

  医療事件における相談者(依頼人)の期待は,「真実を知りたい。そして,医療機関に非がある場合には謝罪してもらいたい。」ということが多いと思います。

 ただ,生身の人間の身体に起きたことを,事後に完全に明らかにすることは困難(不可能)です。再現することもできません。医療機関から可能な限りの情報と説明を提供してもらうことにより,いわば「情報の獲得」によって(制約があるものの)どこまで真実に近づけるのか,ということになります。依頼人の「納得感」の向上にできるだけ努めることになります。

 他方で,法律上の解決は,金銭賠償が基本です。医療機関の「過失」や「因果関係」という規範(評価)を伴う要件を「賠償金額」という数字にどこまで反映することができるのか,という問題になります。被害内容によるものの,患者側に支払われる金額の大小が医療機関の行為の問題性を客観的に示すという面がありますが,果たして相談者(依頼人)が弁護士に依頼した時の期待と整合しているのか,常に気になります。

4 「起きたことを具体的にイメージ」すること

 医療事件に取り組む際には,医療記録や医療機関側からの説明書面をていねいに読み込みます。特に,医療記録については,読むたびに新たな発見があることが多いです。

 そして,集中して読み込んだ医療記録と依頼人の説明を基に,具体的な医療の場面を思い浮かべます。目をつぶって具体的な出来事(例えば,血管の壁を力を入れて不用意に削り過ぎてしまったとか,認知症の患者が要領を得ない言葉を発するのでうるさいと思って放置した等)をイメージします。論理的ではないかもしれませんが,私はこのイメージを大切にしています。代理人弁護士が医療行為の問題性(つまり勝訴)のイメージを持てない場合には,その案件は責任追及が難しいと思います。見方を代えれば,勝訴のイメージを持てれば,それを尋問における質問(とっさの対応)や,弁論準備手続や和解における裁判所への説明と説得に活かすことができます。自分の頭と体から出てくる発想や感覚というものです。

5 我慢と忍耐と根気強さ

  医療という専門性が高いテーマについて,調べながら多くの資料を検討してそれを文章にするという作業は負担が大きいです。特に,複数(多数)の医療訴訟を同時に抱えている場合には,被告(医療機関)からの詳細な準備書面と膨大な医療記録を前にして,立ち往生しそうになります。

 ただ,これまで何度も一体どうなるのだろうと思ったことはありますが,幸いにも,何とか無事に業務を続けられています。我慢とか忍耐とか根気強さというものが少しは必要なのかもしれません。

6 医療事件への取り組みを続けている理由

  これまで私が抱いていることを感想文的に述べてきましたが,このような事情が あるにもかかわらず医療事件に継続して取り組んできたのは,人間の身体や医療というものに興味と関心があるというのが理由の1つであると思います。大学時代には医事法を研究されていた先生のゼミに参加していました。当時は,脳死や臓器移植が重要なテーマでした。 

 また,私は,会社から契約案件やМ&A交渉の依頼を受けることが少なくありませんが,経済的合理性とスピードに優先度がおかれるこれらの案件と医療事件とでは,依頼人の発想や期待が大きく異なります。全く異なる種類の案件を行っていることも,やや新鮮な発想で医療事件に取り組めている理由の1つといえるかもしれません。

7 最後に

  私が医療事故研究会に参加させていただいてから長い年月が経ち,私より若い会員の方が増え(私はいつのまにかシニアのグループになってしまった,という印象です。),私がかつて幸運にも諸先輩から受けることができた知識や経験を次の世代の方々にお伝えできているという自信は全くありませんが,引き続き私なりに頑張っていきたいと思います。 

                          弁護士 上田 正和

2024年6月13日 (木)

世にでない医療過誤

 1年ほど前から、医療過誤を繰り返すある医師を題材とした漫画がインターネット上に公開され、段々と話題になっていました。内容に真実味があり、フィクションではなく、本当のことを題材にしているのではないかといった感想を持つ読者が多かったようです。最近になって、この漫画の話題がまた大きくなってきました。その理由は、この漫画はやはり事実をもとにしたものであり、そして、その題材となった医師も特定されつつあるからのようです。この辺の話の真実性はわかりませんし、ここで話したいのは、描かれている医師がどこのだれかということではありません。

 漫画の内容としては、医療過誤やその他の問題を度々起こす医師と、それに対する病院の対応が中心に描かれています。その中で、患者又はその遺族については、医療過誤があったことを知らないままに絶望していく様子が描かれています。

 この漫画にも描かれているように、仮に医療過誤があったとしても、患者や遺族に対する説明において、それが余程明らかなものでもない限り、医療過誤をごまかそうと思えばごまかせるものなのだと思います。それは、医師と患者や遺族とでは、医学的な知識に圧倒的な差があるからです。ですので、事後的に医療過誤として認められた事案というのは本当に氷山の一角で、ほとんどの医療過誤が、医療過誤と気づかれないまま埋もれていってしまっているのだろうと思います。

 医師においては、医療過誤があった場合、又は、医療過誤の可能性がある場合には、そういった全ての可能性も含めて患者や遺族に説明してほしいと思います。それが専門家としての責任であり、矜持なのではないかと思います。

                                     弁護士 福原 亮

 

2024年3月28日 (木)

医療事故調査制度の欠陥

医療事故調査制度の欠陥

  医療法上、「センター調査」(第6条の171項)は、医療機関が「医療事故」(「当該病院・・・が提供した医療に・・・起因すると疑われる死亡・・・であって、当該管理者が当該死亡・・・を予期しなかったもの」(第6条の10第1項))に該当すると判断して医療事故調査・支援センターに報告した事例(第6条の171項は単に「医療事故が発生した病院等の管理者又は遺族から、当該医療事故について調査の依頼があったときは」と規定するのみであるが厚生労働省医政局長平成27年5月8日付通知(医政発05081号)は「医療事故が発生した医療機関の管理者又は遺族は、医療機関の管理者が医療事故としてセンターに報告した事案については、センターに対して調査の依頼ができる。」との限定解釈に基づく運用を各都道府県知事に対して指示する。)で当該医療機関の院内調査結果について遺族が第三者による検証を希望する場合にセンターの個別調査部会・総合調査委員会により行われる調査とされています。従って、医療法上の「医療事故」に該当することが明らかな場合でも、医療機関が自発的にセンターに「医療事故」の報告をしない限り、遺族からはセンター調査を利用することができないという欠陥があります。

 未破裂前交通脳動脈瘤につきコイル塞栓術を受けた高齢の女性が心タンポナーデを発症し出血性ショックで死亡した事例につき、死因についての医療機関の説明に不信を抱いた遺族から相談を受けました。

 脳神経外科の協力医から、医療機関の病理解剖所見は杜撰で凡そ死因解明の参考にはならず、医療記録のみでは死因を判断できない、第三者であるセンター調査による死因究明の方途を勧める旨意見を聴取しました。そこで、遺族から医療機関に対し、改めて死因の説明を受けるとともにセンター調査の申込を求めることを回答しました。

 この遺族からの申し入れに対し、医療機関は、院内調査委員会による調査を行い、プロタミンによるアナフィラキシーショック→DIC→心タンポナーデ→心臓手術後の癒着+予備能力不足(高齢・心臓胃癌手術後)→死亡という院内調査結果と本事例は医療事故に該らないのでセンターへ事故報告しない旨の報告書を遺族に交付しました。

 前記のとおり、医療機関が自発的にセンターへの医療事故報告をしない以上、遺族からのセンター調査申込は受理してもらえないため、やむなく、訴訟(鑑定含む)の方向で検討を開始することとしました。その訴訟準備の過程で、事件の進行状況を研究会の例会で報告する機会があり、研究会の事務局長から厚生労働省医政局総務課長通知(医政総発06241号)「医療法施行規則の一部を改正する省令の施行について伴う留意事項等について」第二、4に、センターに対して遺族等から相談があった場合、遺族等からの求めに応じて相談の内容等を病院等の管理者に伝達すること、という規定があるので、当該規定に基づいて、センターから病院に対し医療事故の報告をするよう伝達してもらう手段がある旨アドバイスを受けました。

 右アドバイスに従い、プロタミンによるアナフィラキシーショックの死亡事故は医療法第6条の10第1項の「医療事故」に該当しセンターに報告されるべき事例であり、医療機関には同法同条同項の「医療事故」としてセンターへ報告する義務の違反があるとして、センターに医療機関へ医療事故報告を促す伝達を求めると同時に、医療機関に対しても、センターへの医療事故報告を求める旨の通知を発送しました。

 その結果、医療機関に代理人がつき、センターへ医療事故報告をなすと同時に院内調査を医療事故調査手続に基づく院内調査とするため改めて遺族への結果説明の機会を設けたうえでセンターへの結果報告をし、センター調査手続が開始されるという運びとなりました。  

 センターへ相談し、センターから医療機関に対して相談内容を伝達してもらうことにより、医療機関からセンターへの医療事故の報告を実現することができた本事例が、今後、ご遺族が医療事故調査制度を利用するうえでの手助けとなればと思い、参考事例として紹介する次第です。

                                   弁護士 山内 容

2023年6月 8日 (木)

カルテへの記載と不記載

 カルテへの記載は、裁判上、どのような意味をもつでしょうか。

 カルテは医療関係者が業務の一環として規則的かつ経時的に作成されるものです。カルテが紛争発生前に作成されることも踏まえると、カルテに記載がある場合、一般にはその記載に沿った事実があるとの推認が働くこととなるでしょう。裁判例でも「診療録の記載内容は、患者と医師との間に紛争が生じた後に提起される医療訴訟においても、患者の診療経過を明らかにするものとして重要な証拠となり、特段の事情がない限り診療録の記載に従って診療の経過が認められることになる」と判断されています(東京地判平成151128日)。

 もっとも、その推認が働かない場合があります。典型例はカルテの改ざんです。カルテの改ざんやその可能性が認定された裁判例も少なくありません。一方、電子カルテの場合には、一般に更新履歴が残るため改ざんは困難だと言われています。しかし、電子カルテの改ざんを認めた裁判例もあり注意が必要です(大阪地判平成24330日判タ1379167頁)。

  それでは、カルテへの不記載の場合はどうでしょうか。

 症状が存在したはずだが記載がない、処置や検査をしたが記載がない、というような事例です。一般的に、記載がないことからその事実がないと直ちに判断するのは難しいかもしれません。見落としの場合もあれば、細かな事柄だから記載しなかった、緊急だったので記載できなかったなど、様々なパターンがあり得ます。もっとも、診療録の作成は義務であることから「カルテに記載がないことはかえって診察をしなかったことを推定せしめるものとすら一般的にはいうことができる」と述べている裁判例もあります(岐阜地判昭和49325日)。記載があるはずなのに記載がない、記載しなかったことに合理的な説明がないなど個々の事案に応じて不記載をもってその事実が存在しないことが裏付けられることもあるでしょう。

                                   弁護士 寺谷 洋樹

2023年1月12日 (木)

インターネット上で視聴できる手術動画について

 医療調査事件を受任した場合、カルテを読むことは当然ですが、文字で書かれた手術記録等を読むだけでは、それがどのような手術であるのかを理解することが難しく、イメージが湧かないことがよくあります。例えば、大動脈弁狭窄症に対する手術法の一つであるTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)であれば、ガードワイヤーを大動脈弁に通し、これに沿ってカテーテルを進めていき、適切な位置で止めてバルーンを拡張し、人工弁を留置して、カテーテルとガイドワイヤーを抜き取るという流れになりますが、TAVIに関する知識やある程度の医学知識があれば別ですが、文字だけ読んでいてもイメージが湧かないのではないかと思います。

 また、医学文献や医療機関のホームページには、写真やイラストが掲載されており、これによってどのような手術であるのか、その手術の流れも含めてある程度は理解できます。

 もっとも、これだけでは一連の流れがイメージできないこともあるため、手術ミス(手技上の過失)が問題となり得る事案では、インターネット上で視聴できる手術動画を見るようにしています。上記で例に出したTAVIについてもインターネット上(YouTubeなど)で視聴できる動画が複数あり、それを見ると手術の一連の流れを視覚的に容易に理解することができます(しかも、医師がわかりやすく解説している動画が多いです。)。また、カルテや医学文献をよく読んだ後に、あらためて手術動画を見ると、さらに理解が深まることが多いように思います。

 そのため、医療調査において、インターネット上で視聴できる手術動画は、非常に便利で有益なツールであると思っています。

                                弁護士 品谷圭佑

 

 

2022年10月13日 (木)

ナビゲーションシステム等の先端機器を利用した場合における過失認定

 先日、背骨を骨折した患者に対し、骨を固定するための医療金具を脊椎に挿入する手術を行ったが、その際に、誤って脊髄まで圧迫してしまった、その原因が、手術を行っていた医師としては金具挿入時に違和感を感じていたが、手術用ナビゲーションシステムのモニター画面では適切な位置と表示されていたため挿入を続けたためだったという事案で裁判になっていたところ、和解が成立したという記事を読みました。

 上記記事を読んだ際に、ナビゲーションシステムの利用は手術を正確・安全に実施するためのものであり、現在はかなり精度も上がっているのだから、場合によっては医師の「感覚」よりもナビゲーションシステムを信用すべき場合もあり得るのではないか、そのような場合において過失の認定をどのように考えるのか疑問に感じ、ナビゲーションシステムについての文献を少し読んでみることにしました。

 文献によれば、ナビゲーションシステムにはいろいろな種類があるものの、いずれの場合においても、患者の解剖学的情報と、術前・術中の画像情報との位置合わせ(レジストレーション)が最も重要だそうです。

 つまり、ナビゲーションシステムの仕組みとしては、位置感知システムと当該システムに基づくデータを高速画像処理するワークステーションから構成されているわけですが、位置感知システムを正確に作動させるためには、正確な情報、つまり正確なレジストレーションが重要であり、レジストレーションが正確に行われていれば、モニター上に示される位置と、真の位置との違いは1ミリ以下になるそうです。

 では、レジストレーションが正確になされていれば、全く問題がないか、というと、どうもそうではないようです。

 「誤差1ミリ以下」と聞くと、もはや驚異的な誤差の範囲内のように思いますが、やはり、小さくても誤差があることには変わりはなく、また、金具挿入時等に椎体が動いてしまうこともあり、そのために誤差が大きくなってしまうこともあるとのことでした。

 上記を踏まえると、「レジストレーションをきちんと行っていなかった」場合は「過失」が認定される可能性が高くなるのでしょうが、現時点においては、レジストレーションをきちんと行っていた場合であっても、ナビゲーションに依存することなく、術前に把握した情報に基づいて医師自らが判断しない限り、やはり過失が認定される可能性があるのだろうと感じました。

 今後、このような機器等を用いた手術に関する裁判例等も増えるかと思いますので、注視していきたいと思っております。

                                 弁護士 大城 季絵

2022年7月 7日 (木)

「後方視的」という言葉  

1 現在,複数の医療事故訴訟事件を取り扱っていますが,医療機関の代理人の準備書面や口頭での説明の際に,「原告の主張は後方視的な見方(考察)である」という言い方がたびたび行われています。以前から医療機関の代理人は使っていた言葉でしょうが,最近やや多く目にするように感じています。比較的若い代理人が使っているという印象を持ちます。これらは私の個人的な受け止め方であるのかもしれませんが,医療機関の代理人が使用する言葉にも流行りというものがあるのかもしれません。

  「後方視的」という言葉は,「後方視的な研究」という用法に示されるように,

既に行われたことをさかのぼる(回顧する)という意味です。「後方視的」は英語では「retrospective」(レトロスペクティブ)となります。医療事故訴訟事件において医療機関の代理人が準備書面で書いてくるのは,「・・・という原告の主張は『後方視的』な考察であり,結果責任を問うものであるので,医療行為の評価としては適切でない。」というものです。

 ただ,訴訟手続による紛争解決は,そもそも「すでに起きた過去の出来事」に対して「事後的な解決(救済)」を与えるものですから,本来的に「後方視的」なものです。医師や医療機関からすれば,目の前の患者に対してできることを行ったのであり予想できないことが起きた(起きていた)という「前方視的」(英語では「prospective」)な評価を行うべきであると主張することになるので,「後方視的」という言葉は医療事故訴訟を批判的に述べる際に使われます。

2 患者側代理人としては,医療事故訴訟における代表的な主張の組立てとして,

(1)客観的に発生していたよくない状態(解剖所見などが根拠),(2)(1)が発生していたことをうかがわせる症状や検査データ(数値),(3)(2)にもかかわらず医療機関は医療水準として求められる必要な対応を行わなかった,(4)そのため,患者は死亡した(重い後遺症が発生し残存した),という流れがあります。

 このような事案においては,(1)客観的に発生していたよくない状態を明確に示していくこと(客観的な事実であり,医療事故訴訟の出発点でもあります。)

が必要です。ところが,これに対して,医療機関の代理人は,「原告の主張は後方視的な見方ないし考察であって適切ではない。」と主張して,原告の請求やそれを基礎づける主張を争ってきます。もっとも,患者側としては,客観的に発生していた状態を明確にすることが出発点で責任追及の前提になります。そして,このことは,決して後方視的な見方や考察というものではありません。客観的に発生していた事実を明確にすることは結果責任を問うこととは異なります。

 今後も,医療機関の代理人から「原告の主張は後方視的な見方ないし考察である」という主張(準備書面の記載)がなされるでしょうが,これに惑わされることなく,客観的な事実を明確に示していくことを基本にして,医療事故訴訟事件に取り組んでいきたいと思います。

                                    弁護士 上田 正和

2021年11月11日 (木)

便利さと危険さ

 医療裁判や医療に関する話をしなくてはということで、どのような話をしようかと考えていたら、先日、以下のようなニュースが流れてきました。

 先月(筆者注:10月)31日、患者の電子カルテのシステムがコンピューターウイルスに感染し、使用不能となっているつるぎ町の町立半田病院では、依然、復旧のメドが立っておらず、引き続き、新規の診療や救急患者の受け入れを中止しています。つるぎ町の町立半田病院は先月31日、電子カルテのシステムが「ランサムウェア」と呼ばれる身代金要求型ウイルスに感染し使えなくなりました。(URLhttps://news.yahoo.co.jp/articles/f0273d8be423ee4c4d409cee78f07027befb3164

 JRT四国放送)

  電子カルテが普及し始めてから相当期間が経過し、本当に多くの医療機関において導入されてきています。電子カルテの導入による医療機関のメリットとしては、業務の効率化、検査結果とカルテの一元管理、省スペース等、色々なものがあると言われています。

 医療裁判を担当する者としては、電子カルテは情報がまとまっていて検討しやすいし、改竄の可能性も手書きのカルテに比べて相当低いし、何よりも「何が書いてあるかわかる」ということが本当にありがたいと思っています。手書きのカルテの場合、英字等による略称が頻繁に用いられ、しかもその用いられる略称は医師によって異なることも多いために判読に苦労し、何よりただただ字が汚くて読めないということも多いのです(私の字も本当に汚いので、人のことを言えた義理ではないのですが)。

 そういう意味で、電子カルテというのは本当にいいことづくめだなあと思っていたところに冒頭のニュースです。

 考えてみれば当たり前なのですが、電子カルテに限らず、資料を電子化するということは、パソコン等のコンピューターに依存するということですから、それが使えなくなれば業務の全てに支障が出てしまいます。しかし、病院の場合、そのような状況でも現に入院している患者の治療は続けなければいけません。その患者の状態はどうであったのか、これまでどのような薬が処方されていたか、今後どのような治療をしていくのかということが正確に分からない中での手探りの活動となっているのではないでしょうか。現在、現場で対応にあたっている方の苦労は並大抵のことではないだろうと推察します。

 私も、日々の業務で使用した資料の多くを電子データ化しています。スケジュールなども、インターネット上で管理しています。もし、自分にも同じような事態が起きたときのことを考えると背筋が寒くなります。私も、現在の電子データのバックアップ体制が十分かどうか検討していきたいと思います。

                                   弁護士 福原 亮

 

2021年9月 9日 (木)

医師講演-臨床検査をテーマとして

医療事故研究会の会員は,毎月,例会という学習会を開いて研鑽を積んでいます。

例会では,担当事件の報告を元に討議したり,医療知識の勉強会をしたりします。

医師を講師として招いて,レクチャーをしてもらうこともあります。

医療の専門家から直接話を聞ける機会は大変有益であり,医師講演の例会には,

いつにもましてたくさんの会員が参加します。

 

7月の例会では,内科の医師をお招きし,臨床検査をテーマに講演をして頂きました。

今回の講師の医師は,過去にも合宿で講演をして下さったり,会員の扱う医療過誤事件で

私的鑑定をして下さったりと,お世話になっている馴染みのある先生でした。

 

講演では,まず,医療における臨床検査の位置づけ,臨床検査の分類という

体系的な面に関する説明がありました。

次に,入院時,手術前などに全身状態の概要を把握するために行うスクリーニング検査

の特色の説明などがありました。スクリーニング検査は,隠れた疾患,合併症の発見,薬剤の副作用防止

などの目的で行われるものです。

その他,院内検査(検査科)か,外注検査か,という観点からの解説もありました。

 

医療過誤訴訟においては,臨床検査の記録は,客観的な証拠として高い証拠価値を持ちます。

この検査数値からすれば,担当医はこういった治療を行うべきであった,という形で

過失の重要な根拠となることもあります。

医師講演の後半では,講師の先生が過去に関与した医療過誤事件の中で,

臨床検査の評価が争点となった事件の報告がありました。

 

医療過誤訴訟で重要な意味を持つ臨床検査について,横断的,概括的に学習できた今回の医師講演は,

大変貴重な機会でした。

今回の例会は,コロナ禍により,Web会議システムで行われたことも画期的でした。

自分の事務所にいながら,講演をリアルタイムで聞き,質疑応答もできます。

Web会議でも,会議室に集合して行う講演とほぼ同じ成果をあげることができるのではないか

と思いました。

今後は,こうしたIT機器も取り入れつつ,より充実した研鑽を目指していきたいと思います。

 

                                弁護士 武谷 元

2021年6月10日 (木)

医療事故の調査について

 医療事故の相談においては、医療記録を見ないで有意なアドバイスをすることはできませんが、それを理解していないのではと思われる人がまま見受けられます。その場合は、医療記録の開示請求をしたうえで医療記録を持参のうえ再相談を求めるというアドバイスのみとなってしまいます。また、「手元にある関連する資料のすべてを持参することが望ましい」と研究会の本にも書かれているところですが、資料を持参しない人もまま見受けられます。その場合は、アバウトなアドバイスしかできないことを念押ししたうえで話すことにならざるをえません。

 医療記録が持参されている場合は、話の内容に係る事実関係から、過失、因果関係、損害という要件ごとに医療記録で裏付けをとりながら分析すれば、1時間の相談時間で、「医師や病院に責任を問うのは難しい」か否か、おおよその見当をつけることができます。

 医療事故の可能性がある場合は、問題となっている分野を専門とする医師に医療記録を読んでもらい、専門家としての意見を聴取することが必須となります。調査には、弁護士費用、調査活動の実費、専門の医師への謝礼金等、それ相当の費用がかかることになりますので、調査結果の内容次第で、かけた調査費用が無駄になってしまう可能性があることを念押ししたうえで調査を受任することになります。それでも、その調査結果が、依頼者が「今まで考えていたのとは違う見解」であった場合、依頼者の納得が得られないことがあります。

 そのため、調査を受任する前に、すべての医療記録の開示請求を相談者に求め、すべての医療記録を揃えたうえで専門の医師の意見聴取ができるように準備を整えたうえで、私自身もその医療記録を検討して調査結果についてのおおよその判断をつけてから調査を受任するよう心がけるようにしています。

                                      弁護士 山内 容

2020年12月 3日 (木)

新型コロナウイルスと医療事故

 2020年は、新型コロナウイルスが猛威をふるった年でした。「医療崩壊」と言うキーワードがすっかり定着しましたが、我々市民の日常生活にはそれほど影響が現れていなくても、医療制度の方が先に倒れてしまうことがあることが分かり、医療制度の脆弱性が浮き彫りになりました。医療は我々の健康や生活を守ってくれるものだとばかり思っていたのに、逆に、我々市民が医療制度を守るために生活様式を変える日が来るなんて誰が想像していたでしょう。

 さて、新型コロナの影響は、医療事故にも及んでいるようです。

 2020年4月、新型コロナウイルスに感染して兵庫県内の病院に入院していた50代の男性が治療中に容体が悪化して死亡したという件で、医療機器を使用した際に血管を傷つけたという医療事故の可能性が否定できないとして警察が司法解剖を依頼したものの、少なくとも4つの大学が、感染対策が不十分で受け入れが困難などと回答し、最終的に解剖が実施されなかったケースがあったという報道がありました(2020516日/NHK)。

 この報道によれば、法医学教室は全国に約80あり、年間2万件の司法解剖を行っているとのことですが、新型コロナウイルスの感染リスクを考えると、どこも積極的に受け入れるのは難しい状況のようです。

 解剖には、司法解剖(事件性のある変死体の死因を調べる)のほかに、行政解剖(事件性のない変死体の死因を調べる)、病理解剖(病死した場合に遺族の承諾を得て死因を調べる)などがありますが、感染リスクの問題があることは共通です。もし解剖が行われないと死因の特定や治療の適切さが判断できず、医療事故の可能性があっても、立証する材料が不足しているとして訴訟を断念することにもつながってしまいます。そのようなことがないように、解剖現場での感染リスクの問題が改善されることが急務といえます。

                                                                                  弁護士 中村 新造

 

2020年7月 9日 (木)

医療事故の時効

 医療事件を含む損害賠償請求には時効があります。時効になった後に裁判を起こし,相手から「時効により消滅している」と主張されると,裁判は棄却されます。

 なぜ時効というものがあるかというと,一般的には,①長く続いた状態を法的に確定させる,②時間が経ったことで証明が困難になった者を救済する,③怠慢な権利者は保護しないといった理由が挙げられています。

 医療事故により損害賠償を請求する場合,不法行為として請求するか,債務不履行で請求するか,二つの方法があります。2020331日までに発生した事故については,改正前民法により,不法行為の場合の時効は「損害と加害者を知った時から3年」,債務不履行の場合の時効は「医療事故の時から10年」とされていました。これが,改正民法では,202041日以降に発生した事故については,人の生命・身体を侵害する不法行為の場合は,「損害と加害者を知った時から5年」,「医療事故の時から20年」,人の生命・身体を侵害する債務不履行の場合は,「権利を行使することができることを知った時から5年」,「権利を行使することができる時から20年」とされました(詳しくは当研究会「医療ミスでは?と思ったら読む本〔第2版〕」Q88を見てくださいね)。

 しかし,時効で権利救済が図れなくなることに疑問を持たざるを得ない事案もあります。最近では,1957年に旧優生保護法に基づき強制不妊手術を受けた被害者が,被害の実態を初めて知った2018年に裁判を起こした事案について,裁判所は,時効と似た除斥期間(じょせききかん。行為から20年で損害賠償請求権が消滅するとされていました)の規定を適用して,訴えを棄却した事案があります(東京地判令和2630日)。そもそも除斥期間というのは何のためにあるのか…と強く疑問を持った判決でした。時効の趣旨が当てはまらず,時効の期間を経過してもなお権利を救済しなければならない事案があるのです。

 医療事故については,実際に医療事故かどうかが分からないことも多く,被害者が債務不履行を認識し損害賠償を現実に行使できるところから時効がスタートするという裁判例(大阪地判昭和63715日)や,証拠保全申立ての時から時効がスタートするという裁判例(大阪地判平成10216日)があり,時効については柔軟に判断されることがあります。

 時間が大分経っていて大丈夫かな…と思っても,まずはご相談してみてください。

                                  弁護士 関哉直人

2020年6月11日 (木)

カルテの改ざんについて

 数年前に受任した事件で,カルテの改ざんが問題になったものがありました。同事件では,依頼者がカルテの任意開示を受けていましたが,訴訟で被告が証拠提出してきたカルテには,任意開示時点では記載されていなかった事実が複数追記されていました。同事件は和解で終結したため,裁判所の判断が示されることはありませんでしたが,改ざんに係る事実について,カルテの記載は信用性を欠く旨の主張をしました。

 ここで,診療録等の記載内容について裁判所がどのように考えているかという点について,東京高判昭和56924日判時102040頁は「診療録の記載内容は,それが後日改変されたと認められる特段の事情がない限り,医師にとつての診療上の必要性と右のような法的義務との両面によつて,その真実性が担保されているというべきである。」と判示しています。同判示からすると,診療録等に記載されている事実については,その記載に即した事実が存在するとの推認が働くと考えられます。

 そのため,患者・遺族側としては,カルテの改ざんがなされた事実を主張立証しなければならないことになります。改ざんを認定した裁判例は複数ありますが,例えば,仙台地判平成141212日判タ1185267頁は,証拠保全後に改ざん(追記)されたと認定しています。他にも,大阪地判平成24330日判タ1379167頁は「当時電子カルテでありながら,書き換えた際に書換え前の記載が保存されない設定になっていたこと」などの事実も考慮して,改ざんの事実を認定しています。

 そして,改ざんの事実が認められた場合には,医療機関側の主張の信用性を大きく低下せしめることになると考えられます。この点,東京地判平成151128日(判例秘書登載)は「被告クリニックにおける診療経過が明らかではないという不利益を原告らに負担させてその事態を引き起こした被告に有利に取り扱うことができないのはいうまでもないところであり,本件事故についての被告の過失を認定するに当たっての前提事実については客観的な証拠に反しない限り,原告らに有利に認定して過失判断を行うべきであるし,被告が本件診療録及び本件麻酔記録をねつ造したという事実は,被告の過失を認定する上で,被告に不利益になる事情であると考えられる。」と判示しており,参考になります。

 冒頭で紹介した事件のほか,上記裁判例のように証拠保全後に改ざんがなされるケースもあるようですので,開示済みのカルテと,訴訟係属後に医療機関側から提出されたカルテとの照合作業が必要であると思いました。

                           弁護士 品谷 圭佑

2020年1月28日 (火)

医療過誤事件を離れた争いにおけるカルテの記載の証拠価値

 逮捕状が出ているのに執行されなかった、という刑事事件の民事事件での争いが、昨年12月に原告女性の勝訴という結果になった。

 この事件については、いろいろな人がいろいろな事を言っているのでここで改めて触れるつもりはない。

 しかし、原告と被告の両者が日本外国特派員協会で双方とも長時間の記者会見を行い、そのノーカット版を通して視聴したところ、少し気になることがあったので書いてみることにした。

 それは、被告側が、原告女性が事件後に受診した医療機関のカルテを根拠に、概略、「ここではドクターに〇〇と言っているのに、裁判上の主張は違う、だから原告女性は嘘をついている。」と言っていたことである。

 特に、代理人弁護士は、自分は医療過誤訴訟を専門に扱うが...と前置きしたうえで、上記の発言をしていた。

 しかし、私も医療過誤訴訟を専門に扱っているが、カルテ記載と上記裁判上の主張が一致していなくても、別に不自然ではないと思う。

 だいたい、患者が受診する際に、症状ではないことについてすべて話すだろうか。いちばん気になる症状や、疾患の話をするのではないか。また、医師の方も、供述調書を作成しているわけでもないのに、患者の話したことを、それも症状ではないことを、すべてカルテに書くとは思えない。その医師が必要があると思ったことのみ書いているのだと思う。

 一度、どういう基準でカルテ上”S”(患者の訴えが書いてある部分)の内容を決めているのか、そのうち誰かにお聞きしてみようと思う。

                  弁護士 羽賀 千栄子

2019年11月 7日 (木)

診療ガイドライン

医療の分野では、診療科ごとに診療ガイドラインが発表されていることがあります。たとえば、産婦人科診療ガイドライン、形成外科診療ガイドライン、前立腺がん検診ガイドラインといったものです。

最近では、かなりの数にのぼっています。公益財団法人日本医療機能評価機構が運営している事業の中にEBM普及推進事業Mindsがあり、ここで診療ガイドラインを公表しています(https://minds.jcqhc.or.jp/)。

そもそも、診療ガイドラインとは何かというと、Mindsの定義によると、「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」とされています。「最適と考えられる推奨を提示する文書」とあるように、医師がどのように治療をすべきか迷ったときなどに指針を与えるものといえるでしょう。

このように診療ガイドライン(以下「ガイドライン」とします)は、臨床現場において指針を与えるもので医療の世界のものですが、それが医療訴訟の中で採り上げられ、裁判の世界に入ってくることもあります。

ある診療行為がガイドラインに違反している場合、その診療行為に過失(注意義務違反)があるのではないかという形で問題になります。

ある診療行為がガイドラインに違反している場合に直ちにその診療行為に過失があることにならないのは、もちろんです。

過失があるというのは診療当時の医療水準に違反していることをいいますが、ガイドライン違反=医療水準違反、とは必ずしもいえないからです。

ただ、ガイドラインは医療水準を知るための有力な証拠であることは間違いなく、裁判でガイドラインが問題になった場合、裁判所はガイドラインについてよく検証しなければなりません。

ガイドラインにもいろいろなものがあるので、一概にはいえないですが、ガイドラインがある治療法を推奨している場合、それと異なる治療法を採用したときには、医療側においてその理由を説明する必要があり、合理的な理由もなくガイドラインとは異なる治療法を行っていた場合には過失が事実上推定されるという考え方があります。

 

ガイドラインには、ときどき、前書きなどで次のような文章が書かれていることがあります。

(1)「このガイドラインは個々の臨床家の裁量権を規制するものではなく、一つの一般的な考え方を示すものと理解すべきであることを強調したい。したがって、このガイドラインの記載通りに治療を行わなかったという理由だけで、訴訟の対象になる事は考え難い。」脳卒中治療ガイドライン2009

ここでは、先ほど、書きましたように「ガイドライン違反=医療水準違反」とは必ずしもいえないということが、より具体的に表現されています。

ガイドラインが「最適と考えられる推奨を提示する文書」であるといっても、そのときの患者の容態や状況は千差万別ですので、ガイドラインに違反するようにみえても、そのときの患者の容態や状況により実際の診療行為には合理的な理由があって医療水準に違反していないという場合は当然考えられます。

さらに

(2)「ガイドラインを遵守していただくことは重要であるが,ガイドラインにとらわれすぎず,状況に応じて上手に利用していただければ幸いである。なお,本委員会は,本ガイドラインを裁判における根拠として利用することを認めない。」(日本版敗血症ガイドライン2016)とまで書かれているものもあります。

医療訴訟は病院や医師を被告とする裁判であり、医療の向上のために作成したガイドラインが、裁判で医師を攻撃する材料に使われるのは許されない、といった考え方に基づいているようにみえます。

しかし、医療訴訟は損害賠償請求訴訟であり、被害者に民事的救済をあたえるべきかどうかを決めるものですから、ガイドラインを有力な証拠として採用し、その結果得られた医療水準に照らして、当該診療行為がそれに違反していれば、過失ありとしなければならないと思います。

従って、「本ガイドラインを裁判における根拠として利用することを認めない。」と書かれているからといって、このガイドラインを裁判で使うことができないとはいえないと思います。

                                 弁護士 島津 秀行

2019年10月15日 (火)

医療訴訟の慰謝料額

 医療訴訟の慰謝料額を,交通事故の慰謝料額と同じと考えてよいかという問題があります。

 この問題について,『最新裁判実務体系2 医療訴訟』(福田剛久・髙橋譲・中村也寸志編)41頁では,編集者の裁判官3名ともに「偶発的に起きたことと,信頼を裏切られて,思ってもみない損害を受けたこととでは,慰謝料額は異なる」との考え方に賛成しています。

 また,東京地裁平成18726日判例時報194766頁は,「交通事故においては,事故以前に当事者間に何ら法律関係がないのが通常であるのに対し,医療事故の場合は,患者と医師の間に契約関係が存在し,患者は医師を信頼して身を委ね,身体に対する侵襲を甘んじて受け入れているのであるから,医師の注意義務違反によって患者の生命身体が損なわれたとき,患者には損害の客観的態様に基づく精神的苦痛に加えて,医師に対する信頼を裏切られたことによる精神的苦痛が生ずるものと考えられる。したがって,医師の注意義務違反の内容と程度及び患者側の受けた損害の内容と程度によっては,患者側の精神的苦痛に対する慰謝料の額が交通事故等の場合よりも高額なものとなる場合もあり得るというべきである。」と判示しています(控訴審の東京高判平成19920日判例タイムズ1271175頁も同判示を維持しています。)。

他にも,東京地判平成1891日判例タイムズ1257196頁は「初歩的かつ重大な過失によって信頼を裏切られた精神的苦痛は極めて大きく,本件提起後も被告丙川が自己の便宜供与のみを強調して過失を認めないとの態度を維持していることにより,その苦痛はますます増大しているものと認められる。このことのほか,本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡太郎及び原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては,この種事案で通常参考とされる交通事故の損害賠償責任における慰謝料算定基準にかかわらず,合計3000万円と評価するのが相当」と判示しています。

なお,医療訴訟における慰謝料額を分析したものとして『慰謝料算定の実務』(千葉県弁護士会編)が参考になります。

 以上のとおり,医療訴訟の慰謝料は,過失の内容や程度のほか,医師ないし医療機関に対する信頼を裏切られたことや,医師らの事故後の対応や訴訟における態度等も考慮して,同様の被害が生じた場合における交通事故の慰謝料額よりも高額になる場合があります。

                                 弁護士 品谷 圭佑

2019年9月10日 (火)

プレハビリテーション

 「プレハビリテーション」(prehabilitation)という、我々一般人にとっては比較的新しい考え方があります。

これは、元々は、整形外科の分野で、手術前に筋肉トレーニング等を行って身体機能を強化することで、手術後の合併症を予防したり早期回復、早期退院を目指すという考え方であったようです。

そして、この考え方は、最近では、たとえば胃癌の手術のような腫瘍外科の分野にもおいても用いられるようになっていて、やはり、手術後の合併症を予防したり、後遺症を軽減させることが期待されているようです。

適切な栄養摂取を伴った適度な運動は、「サルコペニア」(筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態をいい、特に高齢者にとって寝たきりなどの要因にもなり得るものです)の予防も期待されています。

マッチョな身体を目指すことはなかなかできることではありませんが、病気の予防、早期回復のために、適度な運動を継続することを心がけたいと思います。

                                弁護士 榎園 利浩

 

2019年8月27日 (火)

エボラ出血熱の効果的治療薬発見のニュースに触れて

先日、エボラ出血熱に対し、2種類の薬に効果が認められ、効果的な治療に一歩近づいたとの記事を目にしました。

皆さんもご存じのとおり、エボラ出血熱とは、エボラウイルスに感染することによる急性熱性疾患であり、エボラウイルスに感染すると、平均1週間程度の潜伏期間を経て、突然の発熱をきたすほか、頭痛、倦怠感、筋肉痛、嘔吐、下痢などの症状を併発し、症状が進行すると皮膚や目、消化管などから出血を起こすこともあります。

致死率については、ウィルスによって異なりますが、高いものだと80%~90%にもなるといわれており、2019年にもコンゴ民主共和国において集団感染が認められて、多くの人が命を落としている状況でした。

私は、エボラ出血熱の集団感染が起ったというニュースや、アフリカから帰国された日本人の方にエボラ出血熱の疑いがある等のニュースに触れるたび、たくさんの命が失われていく悲しみや、今の社会では日本人にとっても他人ごとではないなという恐怖を感じながら、「これだけ医学が進歩しているのだから、薬で何とかならないのだろうか、今の世の中でもどうにもならないことがあるのだなあ」等と漠然と思っていました。

そんな中、科学者と医師たちが研究を重ね、新薬の治験を重ねて行った結果、2種類の薬が生存率を著しく伸ばすという結果が出たというニュースに触れたわけですが、不可能と思われる事象に対し、科学者や医師の方々が、決して諦めることなく、血のにじむような努力を重ねていたのだと改めて痛感し、漠然と「何とかならないのかな」と思っていた自分が恥ずかしくなりました。

とはいえ、一弁護士に過ぎない私としては、医学的な進歩に直接寄与することはできません。私にできることは、弁護士として医療事件に誠実に取り組み、弁護士が医療事故に関与することによって発生する事故抑止効果によって、医療がより良い方向、患者の方々のためになる医療になることを信じ、努力を重ね続けることだと、思いを新たにした次第です。

                                  弁護士 大城 季絵

2019年8月22日 (木)

医療事故における損害賠償

 起きてしまった医療事故は,残念ながらなかったことにはできません。生身の人間に起きた死亡や後遺症について,時計の針を元に戻すことはできません。そして,弁護士がお手伝いできることは,法律上の責任の中でも,基本的には損害賠償金の支払いという民事責任の追及に限られます。つまり,医療事故という重大な出来事の一部分の解決に限定されています。医療事故の被害者(患者本人や家族)の多くは,お金の問題だけではないとお考えになり,それはもっともなことですが,我が国の法律制度の下では限界があります。

このような制約の中で,損害賠償金の支払いと共にできるだけ事実経過の説明と謝罪を行ってもらい,再発防止に努めてもらうように,弁護士は相談者の皆様と共に頑張ります。

 損害賠償金の支払いについて,少しだけ説明させていただきます。被害者にとってはお金の問題だけではないでしょうが,賠償金額の大きさが医療機関の責任の大きさを客観的に示すことになりますので,多くの賠償金の獲得を目指すことになります。損害賠償金額は,個別の損害項目を積み上げていくことによって算定されます。代表的なものとして,①治療費用や介護費用,②休業や死亡や後遺症によって得られなくなった収入,③慰謝料,があります。これらの各項目の金額の算定方法については,事件として数が多い交通事故における賠償金実務によって,ほぼ確立しています。②については,若い人や収入が多い人が多額になります。③慰謝料とは,精神的損害に対する賠償金のことですが,実務上は定額化されており,それを事案に応じて調整します。例えば,一家の支柱(収入を得て家族を養っている父親など)の死亡であれば2800万円が基準とされています。また,重度の後遺症(例えば,神経系統の機能に著しい障害が残り常に要介護となった場合)の被害者本人の慰謝料は2800万円が基準とされています。これらの金額を見て,皆さんはどのように思われるでしょうか。医療事故は交通事故と異なる面があり,弁護士はそれぞれの事案にふさわしい賠償金額を求めて交渉や訴訟活動を行うことになります。

                                 弁護士 上田 正和

2019年7月23日 (火)

過失の推定

医療裁判では、死亡や後遺症という被害が発生したことについて、医師に不注意(以下「過失」と言います)があったことを、患者が立証しなければなりません。患者側代理人にとって、過失の立証は非常に困難な作業であり、過失の立証が不十分であるということを理由に敗訴することは、よく経験することです。

 例外的に「医師の医療行為によって被害が発生したことを患者が立証すれば、それで、一応、医師の過失が推認され、医師において、被害の発生は止むを得ないものであったことの反証をしない限り、医師の過失があったと判断する」(以下「過失の推定」といいます)という裁判例があります。

 有名な裁判として、「ビタミン剤の皮下注射をした結果、注射部位が化膿し、高度の筋萎縮が発生した場合、医師に過失があった」と判断した最高裁昭和32年5月10日判決があります。

 この判決が過失を認定した理由として、「注射した結果、注射部位が化膿すれば、十中八九、医師が必要な注意を欠いたと見てまず間違いないであろう」という高度の経験則の存在が前提になっていると説明されています。

 過失の推定により過失が認められるには、その前提として、上記の様な高度の経験則の存在が必要であることから、その適用範囲も、必然的に制約されるということが指摘されています。しかし、過失の推定により医師の過失を認定した裁判例は珍しくありません。

 患者側代理人としては、過失の推定の適用が可能な事案を受任した場合には、積極的に過失の推定の主張をすべきと考えています。

                               弁護士 伊藤 皓

2019年6月14日 (金)

医療事故調査制度をより効果的な制度にするために

みなさんは、医療事故調査制度をご存知でしょうか。

医療事故調査制度は、医療の安全を確保するため、医療事故の再発防止を行うことを目的として2015年10月に開始した制度です。

当該制度において、医療機関は、医療事故が発生した際には、まず遺族に対する説明と医療事故調査・支援センターへの報告をし、その後、速やかに院内事故調査を行ったのち、その結果を遺族と医療事故調査・支援センターへ報告することになっています。そして、医療事故調査・支援センターにおいて、その結果を整理・分析し、さらにはそれに基づく啓蒙活動等を行うことによって、医療事故の再発防止に役立てるのです。

この医療事故調査制度に関し、今年の4月に、当該制度に基づいて2018年に医療機関が報告した「患者の予期せぬ死亡事故」が377件であり、報告件数がほぼ横ばい状態であるばかりか、制度開始時に想定していた報告件数(年1300件~2000件程度)を大幅に下回っているという記事が掲載されました。

確かに、制度開始時に想定していた報告件数そのものが多すぎたという側面もあるかもしれませんし、実際、現状の数字でも妥当な報告件数であるという意見もあるようです。

しかしながら、医療事故調査制度は、発生した医療事故を検証し、その結果を、将来の医療事故の再発を防止に役立てるという制度であって、本来、患者・医療機関双方にとって有意義な制度であるはずなのですから、報告件数が伸び悩んでいる理由等についても、本当に報告すべき医療事故がすべて報告されているのか、報告されていない場合には、なぜ報告がなされないのか等に関してきちんと検討することが不可欠と考えます。

この点に関し、医療事故調査制度を運営する日本医療安全調査機構は、医療機関における制度の理解が不十分であることを理由に挙げているようですが、本当にそれだけなのかという疑問はあります。

例えば、医療事故調査制度は医師の個人責任の追及を目的とする制度ではありませんが、医療機関側としては、調査の結果を遺族に対して報告することになるわけですから、当該報告内容を遺族が民事裁判等で用いるのではないかという危惧があり、それが報告を躊躇させる、あるいは「患者の予期せぬ死亡事故」という定義の判断を恣意的に狭める結果になっていないでしょうか。

とても難しい問題であり、今日・明日に解決する問題ではないと思いますが、せっかく開始された医療事故調査制度を、今後、より一層意義のある制度に育てるためにも、医療事故調査制度に関わる全ての立場の人の意見を集約し、忌憚のない意見交換を行っていく必要があるように思いました。

                      弁護士 大城 季絵

 

2019年5月24日 (金)

認知症鉄道事故裁判

 昨年のことになりますが、当研究会の研修で、本会会員の田村先生から、先生が担当された認知症鉄道事故裁判についてのお話をうかがう機会がありました。医療事故裁判そのものではありませんが、昨今、高齢者による交通事故など、高齢者の判断能力低下が要因の一つと考えうる事件が多く報道されていることもあり、非常に興味深いご講演でしたのでご紹介したいと思います。

 認知症鉄道事故裁判は、認知症を患い、一人で外に出てしまうことのあった高齢者を家族が自宅で介護していたが、ある日、家族の注意をすり抜けて、屋外へでてしまい、線路に侵入、電車と衝突してしまった、という痛ましい事件です。それだけでなく、この事故のために発生した振替輸送費などを、鉄道会社が遺族に対して損害賠償請求し、話題になりました。

 最終的には、最高裁で遺族の損害賠償義務は否定されましたが、高齢者が増え、介護に苦悩する家族が増える中で、この裁判は関係する専門家だけでなく、世間の注目も集めました。

 田村先生からは、ご遺族が介護の為になしうる最大限の努力をしていたこと、また訴訟の重さに諦めることも選択肢であったのに、その意義に応えて訴訟を最後まで頑張りとおされたこと、田村先生と一緒に担当された弁護士が、この事故で遺族が損害賠償責任を負うのはおかしいという強い信念を持って裁判を進めておられたことをお聞きしました。また、認知症患者を考える前提として、医療・介護関係者と、法律関係者との間に差を感じたとのお話しがありました。医療・介護関係者は、認知症患者にとっての最善と、また家族への重い負担の軽減を考える一方、法律関係者は、認知症患者によって何らかの被害が生じるおそれがあるという非常に抽象的な危険性を前提としてしまいがちであるなどのことでした。お聞きしたなかでも特に印象的だったのは、第一審判決の報道を知った多数の医療・介護関係者から、自発的に協力の申出があったとのお話しでした。それだけ,本件事故は、介護現場では逼迫した悩みであるとともに、本件において遺族が賠償義務を負うという裁判所の判断は、現場の感覚から乖離したものであったのだろうと思います。

 裁判所の偏見(?)の中、弁護団の努力も大変なものだったと思いますが、世間的に大事件になってしまい、賛否両論の意見があるなかで今後の認知症社会のために必死で頑張り抜かれたご遺族の真摯な態度にも心を打たれました。

 政府が、認知症患者を6%減するという方針をうちだしていますが、それ以上に現在認知症で悩む患者、その家族にどういった手当をできるのか、また社会として、他人事とせず、患者にとって最善の認識を共有し、ともに住みやすい社会のためにどのように受けとめていくのか、ということが問われていると思いました。

                                     弁護士  東 麗子

2019年5月 9日 (木)

医療や医薬品とコンプライアンス

    昨今,企業不祥事の発覚や予防策を語る時,「コンプライアンス」という用語(概念)が

使われることが少なくない。「コンプライアンス」とは,単に法令を遵守していればよいの

ではなく,「社会からの要請や期待に応じた適切な活動を行うこと」を意味する。ただ,

企業活動におけるコンプライアンスの実現といっても,企業を動かすのは最終的には1人

1人の人間(の集団)であり,個々の行為者の意思決定や行動に対して効果的に働きかけ

る(意思決定や行動を統制する)手段がなければ,コンプライアンスの実現は不十分で

ある。そのための行動統制の手段として,法律上の責任の追及が行われる。

 医療の進歩と普及により我が国は超高齢化社会を迎えており,医療や医薬品や介護は

「成長産業」ということができる。医療行為を行う病院や医薬品を供給する製薬会社は,

多数の人間によって組織的な活動を行うという点で,一般企業と同様であるが(製薬会社

の活動は正に企業活動である。),医療や医薬品は人間の生命や身体(健康)に直接の影響

を与えるという特徴を有している。そして,生命や身体への影響の中には,医療や医薬品

の効果による生命や健康の保全というプラス面だけでなく,医療過誤や医薬品の欠陥ない

し副作用による生命や健康に対する侵害というマイナス面があり,医療や医薬品には生命

や身体に対して致命的な影響を生じさせる危険が存在する。また,病院や製薬会社は,

魅力ある製品やサービスを開発し消費者にアピールしながら提供することによって企業

収益の増大と企業価値の向上を目指す一般企業とは異なる面がある。さらに,特に医療に

関しては,高度の専門性とそれを支える資格者のプロフェッションとしての独立性と裁量

判断という特徴があり,外部の目や批判が入りにくいという伝統的な体質がある。

 医療や医薬品をめぐる紛争における法律上の責任の追及は主に損害賠償請求という民事

事件であり,そこでは,問題とされた行為を行った特定の個人(人間)の責任(個人責任)

よりも,法人の責任が問題とされることが多い。つまり,民事医療過誤事件についていえ

ば,医療機関の開設者(法人)を責任追及の相手(被告)とするのが一般であり,医師

個人に対する責任追及は少ない。従って,意思決定と活動を行う個々の人間(行為者)に

対する行動統制手段としての効果には限界があるが,生命や身体(健康)の保全を任務と

する医療や医薬品に関する組織体の一員として活動する者に対して,医療や医薬品の安全

確保に向けた(法律上の責任の追及に裏付けられた)行動準則を提示しその遵守を求める

ことは,医療や医薬品に従事する者に対して,社会からの要請や期待に応じた活動を求め

るものといえ,医療や医薬品におけるコンプライアンス実現のためには重要である。

コンプライアンスという用語(概念)が意味する「社会からの要請や期待に応じた適切

な活動を行うこと」は,生命や身体(健康)の保全を任務とする医療や医薬品に関する領

域においても,重要な意義を有している。

                   弁護士 上田 正和

 

2019年3月12日 (火)

医療事件に取り組むにあたって

 私は弁護士業務として医療事件だけを扱っているわけではありませんが、20年以上にわたって常に継続して医療事件に関わってきました。

 医療事件の特徴として感じているところを簡単に述べさせていただくとすれば、①病気や怪我を直してくれるはずのところで、逆に死亡や後遺症等の悪い結果が発生し、患者本人やご家族からすれば、全く想定外の裏切りという思いが生じていること、②これにより、病院関係者の言動全てに対して不信感や疑いを抱いてしまうこと、③その結果、病院に対して言いたいことが数多く生まれ、弁護士としても法律問題に淡々と取り組むというだけでは十分な対応とは言えないことがあります。

 医療事故相談については、予定された時間を超過することが多いですが、患者本人やご家族のために少しでもお役に立てればと思っています。

                    弁護士 上田 正和

2019年2月 8日 (金)

安田講堂事件から50年経って思うこと

 1月19日朝、テレビが、東大安田講堂に機動隊が導入された日から50年と報じていました。安田講堂の占拠は、1968年インターン制度廃止を軸とした研修医の待遇改善運動の中で発生した医局員と学生の衝突を理由に大学当局が学生のひとりを誤認処分をしたことが契機ではじまったと聞いております。医療事故研究会は、1969年の安田講堂事件の後、同事件をはじめとする闘いの中で逮捕された学生の弁護をした弁護士と医学部闘争にかかわった医師との間で勉強会をするなかでできました。

 それから50年、医師の待遇改善はすすんだのでしょうか。この間、新しい医療機器は開発され、普及しました。医学的研究もすすみました。しかし、東大闘争において問題とされた、研修医や病院勤務の医師の待遇は改善されたのでしょうか。50年前とあまりかわらないのではないかと思います。

 アベノミックス政策の一環として働き方改革実行計画案が出されて、平成29年3月28日「働き方改革実現会議」の決定にもとづき、厚生労働省は「医師の働き方改革の検討会」を設置して平成31年1月11日、医師の長時間労働の実態をふまえて「医師の労働時間短縮に向けた取り組み」として2024年4月から医師の労働時間の上限を一般勤務医には休日労働を含めて960時間とする。特例として救急や在宅医療で緊急性の高い医療に対応する全国の施設などに限り上限1900~2000時間を認めるとの案をだしました。この背景には、現実には、緊急性の高い医療を行っている現場の医師は1900~2000時間働いている現実があります。これを特例としないと緊急の現場はまわらないのです。しかし、これでは、医師の長時間労働を是認したことになっても、医師の労働時間を短縮したことにはなりません。緊急の現場で働く医師の不足のなかで、医師の労働時間の短縮をどう実現するか、難しい問題です。

 日常の1日8時間の勤務にプラスして休日を含めて1900時間~2000時間残業をするとしたら、どうゆうことになるかざっと計算をしてみました。1年365日は、8760時間です。この内1日8時間寝るとして2920時間、正規の勤務として1日8時間働くとして2920時間、残りが2920時間、このうち1900時間から2000時間残業をするとしたら1020時間から920時間しか残りはありません。これを365日で割ると1日あたり2時間79分~2時間52分、この中には通勤時間も含まれます。通勤時間を引いたら、食事、入浴時間など生活に最低必要な時間しか残りません。他に何かをしようとしたら睡眠時間を削るしかありません。患者に直接接する医師に時間にゆとりのある生活の保障がなければ、本当に良い医療は行われません。一部の医師の犠牲的長時間の働きにより維持されている日本の医療の現場の改善が必要です。医学部の受験において、男女差別を行った大学を擁護するつもりはありませんが、卒業後、長時間でも自由に働かせることができる男の医師を附属の大学病院に勤務させたいとの大学の本音もわかります。しかし、問題は、一部の男の医師、に、犠牲を強いて働かせることではなく、ゆとりをもった時間がもて、男、女ともに平等に働ける勤務体制をつくることです。

 亡くなった原因は別ですが、私は、自分の時間をさいても、良心的な活動をされていた医師が、若くして亡くなつたケースに何件かであっています。

 政府は、ライフワークバランスとの名のもとに、働き方改革のキャンペーンをしていますが、企業側の要求ではなく、本当に働く者のことを考えているのか疑問に思っています。

                                弁護士 伊藤 まゆ

 

2019年1月 8日 (火)

医師と弁護士,専門職として成長する責任

  もう30年以上前,司法研修所を卒業する直前に,公式の日程として,教官や同期生との会食の機会があった。私と同じテーブルにいた裁判官として任官予定の女性修習生が,「これからも毎日勉強で大変だ。」と,少し冗談めかして発言した。するとそれを聞いていた裁判官の教官が,「毎日勉強を続けることと,後進を指導することは,専門職として当然のことだ。だからこそ専門職なのだ。」との趣旨のことを言った。

 その後数年して,上記女性裁判官が研修で東京に来た際,拙宅に泊まり,四方山話をする中で,「裁判官より弁護士の方が育成に時間がかかるって部長(法廷では裁判長)が言ってた。10年はかかるって。羽賀さん,大変だね。」と言った。私は,当時(今も)は,文字通り成長の途上にあったから,「なるほどね。」と聞いていた。

 その後,ご家族が医療過誤に遭われた医師が依頼者となった事件があり,せっかくなので,被告側証人の医師の証人尋問の中,短時間だが直接尋問してもらった。証人の医師が,ご自身に相応のキャリアがあるとの趣旨の答えをした際,私の依頼者である医師が,「そうは言っても最初の10年のローテート(勤務する病院や診療科を異動すること)の仕方により,同じキャリアでも全然違う。」と反論した。

 やはり10年である。最初の10年が特に大切というのは,医師も弁護士も共通らしい。

 ただ,冒頭の裁判教官の話のとおり,専門職として仕事をするからには,日々の勉強を怠ることはできない。

 日頃医療過誤事件を担当して,病院に行けば治って当たり前,悪い結果になれば医師のミス,と考えている方があまりにも多く,医療機関は大変だなあ,と思っている。もちろん,そうした方々に対しては,きちんとそうではない旨説明している。

その点,訴訟に限って言えば,どちらかに悪い結果となるのは最初から分かっているので,弁護士の方が力量不足が分かりにくいかもしれない。だからこそ,なのであるが,自らをきちんと育てていくことは大切だと思う。残念ながらそうではない弁護士の仕事ぶりを,最近身近で見て驚いたことがあったので,改めて考えてみた。

しかし,自分は違うと言えるのか,答えを考える前に,そうならないよう前進するしかないだろう。この仕事を続けていくというのならば。

 医療過誤に遭ったと思っておられ,専門職に失望し,それでもこれから弁護士を探さねば,と思っておられる方に,弁護士はこんなことを考えているという参考になれば。

                                     弁護士  羽賀 千栄子

2018年7月31日 (火)

ガイドラインを踏まえた上での個々の患者に即した治療の重要性

医療事故研究会においては、定期的に、講師の方をお招きしてお話をお伺いし、会員の知識研鑽を行っております。

先日は、消化器外科のドクターをお招きし、お話を伺う機会がありました。

そのお話の中で、「ガイドライン」に従った治療と、個々の患者さんの身体状態に即した治療との間で、医師として悩む場面があるとのお話がありました。 

「ガイドライン」とは、「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量し、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、患者と医療者の意思決定を支援する文書」などと定義づけられていますが、もっと簡単に述べると、さまざまなデータ等を踏まえて専門家が議論をし、有効性と安全性を検討した上で、望ましい治療法あるいは標準的な治療法を示したものであり、各学会から発表されています。

このようなガイドラインがあることによって、医師の学習や経験によるばらつきを解消し,場所等を問わず標準的な治療を受けられるようになりますから、患者にとって、とても重要なものといえます。 

しかしながら、例えば「癌」という病気であることは共通であるとしても、その身体状態や併存疾患の有無等は、患者ごとに全く異なっています。そして、ガイドラインは、そのような個別の状態にまで配慮したものとはなっていません。

ですから、現場の医師としては、ガイドラインを踏まえつつ、個別の患者さんにとってベストな方法を模索することになり、この点にとても悩み、心を砕くというお話でした。

このように個々の患者の状態に心を配ってくれる医師がいてくれるということは、患者としてとても心強いことだと思います。

ただ、患者としては、果たして自分の主治医がどのような考えに基づいて治療を行っているのかという点は、直接医師から話を聞かないとわからないことだと思いますし、その点について医師と患者との間に共通認識がない場合は、それが紛争の原因となる可能性が高くなってしまいます。

ですから、患者として、あるいは患者の家族として、何か治療方針に疑問があるという場合には、積極的に医師とお話をして、疑問を解消されることをお勧めいたします。 

                        弁護士 大城 季絵

2018年1月30日 (火)

医療過誤訴訟の地方出張

私が医療過誤訴訟を手掛けるようになったのは,弁護士になり最初に就職した事務所が合わずに1年で退職した後に,紹介された事務所が,医療過誤を多く扱っていたからである。

 それまで,医療過誤事件に特に興味があったわけではないが,勤務弁護士としてまじめに仕事はしていたと思う。医療事故研究会は,所長が色々な弁護士と組んで仕事をした方が良いと入会を勧められた。

その事務所も地方の方から医療過誤事件の依頼を受けることが多く,所長と一緒に北海道や山形へ出張した。そして,所長が出張を楽しむ方だったので,高級温泉旅館などの宿泊が伴った。しかし,宿泊の多くは出廷時間の関係で前泊だった。所長の方針で就職した直後から医師の証人尋問を担当していた私は,成功する目処も立たない中,緊張していてあまり楽しめなかった。

しかし,その後一人で出廷するようになると,所長からは翌日観光してきても良いと言われ,事務所の費用で豪華な観光旅行もさせていただいた。

当時は弁護士になり2,3年目だったので,弁護士の仕事のペースがあまりわかっておらず,弁護士はこうして優雅に仕事をするものなのか,とも思ったが,根がワーカホリックなので,あまりしっくりこなかった。

その事務所には4年いた後,独立して現在に至るが,独立後,宿泊を伴う地方出張は,医師の都合で医師との打ち合わせと証人尋問が別々の日になってしまったときの一度だけであったと思う。

日本全国日帰りできない所はないと思うし,高知の午前10時の法廷も,暗いうちから当日行った。

しかし,一昨年新潟の方から医療過誤事件を頼まれ,何度か新潟地裁へ通ってから,もう少しゆっくりするのもいいかな,と思うようになった。

新潟市は私の出生地で,生後数年間住んでいた。そのせいで,そこの空気が懐かしく,そこでの時間が心地よかった。帰りの駅で見かける笹団子も,祖母から良く送ってもらったな,とか思いを馳せ,繁華街を通ると,幼い私はここを歩いたことがあるのだろうか,などとあれこれ考えた。

幸か不幸かその訴訟は数か月で和解となったが,その依頼者の紹介の方の事件で来月また新潟へ行く。

たぶん私はまたすぐ事務所に戻り,カリカリ仕事をするのだろうが,懐かしい場所で優雅な1日を過ごす可能性も残しておきたいと思っている。

                   弁護士 羽賀 千栄子

2017年12月 5日 (火)

証拠保全の事由について

最近、証拠保全の申立てを行いました。証拠保全は、医師や医療機関によりカルテが改ざんされるおそれがあるような場合に行うもので、代理人弁護士と裁判官らが医療機関に赴いてその場でカルテ等の開示を受ける手続です(医療機関は、証拠保全手続が行われる1時間から1時間30分くらい前に初めて証拠保全手続が実施されることを知らされます。)。

証拠保全の申立てにあたっては、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」(民事訴訟法234条)を疎明しなければならないとされています(民事訴訟規則1533項)。

この「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」とは、証拠(カルテ等)の廃棄、紛失、改ざん等のおそれがある場合を意味し、ここでいう「おそれ」は、一般的・抽象的なものでは足りず、個別的・具体的なものが必要とされています(東京地判平成10827日等)。

具体的には、①医師に改ざんの前歴がある、②医師が患者側から診療上の問題点について説明を求められたにもかかわらず相当な理由なくこれを拒絶した、③前後矛盾ないし偽の説明をした、④ことさらに不誠実又は責任回避的な態度に終始した等の事実をもとに、改ざん等の具体的なおそれがあると主張していくことになります(広島地決昭和611121日。その他、東京地裁の裁判官が執筆されている『証拠保全の実務』など)。

弁護士としては、以上のような裁判例や実務の運用を前提として、ご相談者が医療機関に対して不信感を抱くに至った経緯や理由などを確認し、改ざん等の具体的なおそれがあるといえそうかどうか検討することになります。

最近は、電子カルテシステムを利用している病院も多いように思いますが、電子カルテについても改ざんが可能な場合があり、「一般論としては、電子カルテであることのみを理由にして、改ざんのおそれの存在を否定するのは難しい」(『電子カルテの証拠保全について』判例タイムズ13298頁)と言われています

ですので、電子カルテの場合も含め、改ざん等の可能性があると思われる場合は、その旨ご相談いただければと思います。

                                           弁護士 品谷圭佑

2017年11月 2日 (木)

全国交流集会

1027日、28日に、「医療問題弁護団・研究会 全国交流集会」が東京で開催されました。

Drphoto20171027_3 当研究会からは、専門家の医師をお招きして「高齢者に潜む怖い障害 廃用症候群」という演題でご講演いただいた後、当研究会会員の弁護士から高齢者特有の医療リスクや高齢者の手術適応、検査、薬剤投与等に関する裁判例を報告しました。

私も報告者の一人として関与しましたが、具体的な事件を離れて、あるテーマについて裁判例等を調査・研究する時間はなかなか取れないこともあり、今回は勉強する良い機会をいただいたと思っています。

今後もこうした活動に積極的に取り組み、研鑽を積みたいと思います。

 弁護士 品谷圭佑

 

 

2017年9月21日 (木)

全国交流集会について

 毎年1回、本研究会のような、全国各地にある医療事故問題をあつかう弁護士の任意団体が集まって交流集会を開催しています。交流集会では、各地の医療問題を扱う弁護士が集まって、テーマを決めて研究発表したり、意見交換をしたり、あるいは、医師を招いて、専門的な話をうかがったりしています。開催地は、その年ごとに異なるのですが、今年は東京で行われ、本研究会からも発表を行います。テーマは、日本の高齢化にともなって、最近テレビなどでも話題になっている老人性廃用症候群の他、高齢者の医療事故などについてです。老人性廃用症候群について専門家の医師をお招きしてご講演いただくとともに、研究会所属の弁護士らが高齢者の医療事故裁判例などを調査した結果を発表します。このように、当研究会では、全国の弁護士らと協力して、幅広く研鑽をかさね、相談に来られた方に的確な対応ができるようにしています。

                          弁護士 東 麗子

医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

2017年8月25日 (金)

医療水準について

先日、体重1500グラム以下の状態で人工心肺の装着を受け、その後、生後半年ほどで再度人工心肺装置を装着した上で心臓の手術を受け、無事退院したというニュースに触れました。

大切な命が救われたことは大変喜ばしいことであり、なにより、ご両親をはじめとするご家族の気持ちを思うと、よかったなあと心から思います。

そして、同時に、医療・医学の進歩に驚かされ、とても感心しました。

体重が1500グラム以下の赤ちゃんについては「超低出生体重児」とよばれていますが、「生出生体重児」といわれる、いわゆる標準的な赤ちゃんの体重が2500グラム以上4000グラム未満であることを考えると、かなり小さな赤ちゃんであることは、お分かりいただけると思います。そのような体の小さな赤ちゃんの、しかも心臓の血管の手術を、人工心肺を装着する形で行うことが可能になったわけですから、医学の進歩は目覚ましいものだと思います。

ただ、新規の治療法を受ける場合には、一定のリスクが存在することも事実ですし、患者の立場に立てば、「自分が受診した医療機関が、新規の治療法を前提にして診療を行う義務を負っているのか」、「新規の治療法を前提にして診療が行われていれば病気が治癒していたのではないか」という点が気になるところではないかと思います。

この点問題になるのが、医師の注意義務の基準となる「医療水準」です。

この医療水準に関し、判例では、「ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては,当該医療機関の性格,所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり,右の事情を捨象して,すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。そして,新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており,当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には,特段の事情が存しない限り,右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである。」と判示されています(最二小判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁)。

なかなか分かり難いかもしれませんが、上記判例の内容をごく簡単に述べると、医療水準は全国一律に決まっているわけではなく、平均的医師が現に行っている医療慣行のとおりに治療を行ったからといって必ずしも医療水準を満たしているわけではない、医療水準に関しては、医療機関の性格や所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して判断すべきであるということです。

患者さんにとっては、病気が治癒し、なにも問題が発生しないことが一番ではありますが、もし、皆様のなかで、ご自身の治療方法等に疑問をお持ちの方がいらっしゃいましたら、当研究会でお話をお伺いすることもできますので、ご連絡ください。

                                 弁護士 大城 季絵

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2017年8月 8日 (火)

医療事件の個別性について

1. 法律事務家である弁護士の業務の中心は、個別・具体的な案件(例えば、AさんとBさんの間で、〇〇〇〇をめぐって紛争となっている。)を解決するというところにあります。最近は、企業法務や社外取締役等において、やや一般的な法的スキームに関わることも増えていますが、その場合にも、会社ごとや案件ごとの個性があります。

2. 医療事件についていえば、案件ごとの個別性の程度(事案による違い)は、他の案件よりもさらに大きいと感じられます。1人ひとりの身体の状況(病状)や、それに対する医療措置、その後の状況の変化は、決して同一ではありません。医療技術の進歩と医療の細分化がこれに拍車をかけています。

 従って、医療事件を何年も取り扱っていると、多少は蓄積ができてきますが、その都度、新鮮な気持ちで取り組まなければなりません。

 相談者の中には、「新聞で私の親と同じケースについて病院の責任が認められていた。」とおっしゃる方がおられ、そう思うのも無理はありませんが、弁護士としては、案件ごとの個別性を分かっていただいた上で、相談者と共に戦っていくことになります。

                  弁護士 上田 正和


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2017年6月13日 (火)

無痛分娩の訴訟に関する報道

昨日来、京都府の産婦人科で無痛分娩の施術ミスにより重度障害を負ったとして、患者の夫らが医院に対し、損害賠償請求訴訟を提起したとの報道がなされています。

報道から読み取れる情報を基に考えると(私が読んだのは読売新聞、京都新聞、産経新聞及び毎日新聞のいずれもインターネット版です。)、(1)麻酔針が硬膜を破ってくも膜下に達したのか、(2)麻酔薬の投与量が多すぎたのか、(3)(1)又は(2)の事実があったとして、それらは)医師の注意義務違反によるものかが主たる争点になって審理が進行していくのだろうと思います。

私は、無痛分娩の大まかなメリット・デメリット、海外での実施例が多いものの日本ではあまり浸透していない状況にあるという程度の知識しかありませんので、踏み込んだ考察はできませんが、この訴訟で問題となっているのは、医療行為を巡り医師・医院側に「ミス」があったか否かですから、無痛分娩のリスクそのものの判断とは分けて考えることが肝要と思います。

無痛分娩には、産婦に対するダメージが少なく産後の早い社会復帰が望めるため、特に仕事をしながら出産・育児をする女性にとって大きなメリットがあると聞きます。今回のような報道がなされることによって、重大事故が多いという不確かなイメージが先行して、産婦の選択肢が狭まってしまうことは好ましい状況ではありません。

無痛分娩に限らず医療一般にいえることですが、患者側が医療行為を選択する場合、選択した医療行為によってもたらされるメリットと、その医療行為のリスクの要因と程度を、専門家としての立場ではなく患者の立場として、総合的に考量して判断する必要があると思います。

                                                 弁護士 鶴田 信紀

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2017年2月17日 (金)

医療裁判こぼれ話

 医療裁判では,高度で専門的な医学の知識が必要とされます。

 当然,医療過誤事件を担当する弁護士もその分野の文献や資料に接して一生懸命勉強しますが,多くの弁護士はやはり医者ではないため,限界があります。

そこで,患者側の立場に立って医学的な意見を述べていただける協力医の存在が不可欠になります。

 具体的には,患者及びご家族の依頼を受けて医療過誤の可能性について調査する段階での意見,裁判段階での私的な意見書の作成,また,病院側の医師の主張に対して意見を頂戴し,場合によっては証人尋問を受けていただくこともあります。

 このように,医療裁判を進めるにあたっては,協力医との信頼関係と友好関係の構築が非常に重要となりますが,そのように考えると,医療裁判を手がける弁護士にとっては,医療裁判そのもののスキルのほかに,いかに良い協力医に巡り会うことができるか,医師との人脈作りも非常に大切であることを痛感させられます。

 この医師との人脈作りは,まだ自分は全く不充分ですので,医療事故研究会での活動を通じて,医師との人脈もどんどん開拓していきたい,と思っています。 

                  弁護士 松井 創 

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2017年1月24日 (火)

医療ADR仲裁人雑感

以前のブログでも,どなたかが,弁護士会の紛争解決機関である医療ADRについて紹介していたと思いますが,私は今まで仲裁人として,多くのケースに関与してきました。

そして,まだまだ利用していただけるケースは多いのではないかと思い,現時点で考えていることを書いてみます。

 

私は,医療ADRに適しているケースは,過失を認めるか否かは別にして,医療機関も自らの施設で起きた悪しき結果であると受け止め,何等かの形で患者側に謝罪したいと思っているが,当事者間ではうまく話し合いができないケース,だと思います。

間に医療過誤に精通している人を入れないと,いざ医療機関が「誠意」を見せようとしても,たとえば患者側は「損害賠償するのだな。」と考え,何千万円の請求をしてみたり,その後,話がかみ合わなくなることが考えられます。

短い文章でこのあたりの機微を正確に書ききることは困難なので,書きませんが,医療機関が患者側に配慮する場合のスタンスは,損害賠償に限ったことではないということです。

もちろん,いずれにしても,解決に至るまでには,相互の十分な対話,患者側の納得が必要です。そして,その対話のお手伝いには,医療ADRが最適なのです。

東京都の3弁護士会で,それぞれ仲裁人の体制が異なっていますが,我々医療ADR仲裁人候補者は,3弁護士会すべての医療ADRから依頼を受けています。

私が所属する東京弁護士会は,日頃患者側で代理人をしている弁護士,同医療側の弁護士,仲裁人の経験が長い弁護士の3人体制で行っています。リストを見て,仲裁人の指名もできます。

 

反対に,医療ADRの利用の仕方に問題があるのではないか,というケースもいくつかありました。すべて患者側に代理人がついているケースでした。裁判では勝訴は困難だが,医療ADRに持ち込めば,多少何とかなるのでは,という「ポリシー」で持ち込んでいるのだそうです。

しかし,そのようなケースが増えると,本制度に対する医療機関からの信頼がなくなることは明らかです。実際,医療側の弁護士と,私の依頼者の事件で交渉しているとき,医療ADRの話になり,「病院から金を無理やり出させる制度なので,応諾しないことにしている。」と言われたことがあります。

また,医療機関側に,詳細な質問を繰り返すことを「対話」と誤解されている人もおられ,医療ADRの場で仲裁人として聞いていた私は,我慢できずに,「そういうことは,裁判を起こして証人尋問で聴いたらどうか。」と言ったこともありました。

 

しかし,見方を変えれば,上記のようなケースも,「医療ADRの利用の仕方」について仲裁人と当事者が「対話」できることになり,双方の意見をぶつけ合うことで,本制度がより進化するトリガーとなり得るのかもしれません。

より広く,特に,「弁護士さんを代理人に立てる費用を考えると躊躇する」という方に,利用は有料ではありますが,医療ADRの検討をお勧めします。

  弁護士 羽賀 千栄子

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2016年12月 6日 (火)

シニアとジュニア

当研究会では、二人の弁護士で初回相談に応じています。一人は医療事故に関して豊富な知識と経験をもつ「シニア」の弁護士と、もう一人は経験こそ多くないものの学習意欲と行動力に自信のある「ジュニア」の弁護士です。そんなジュニアの私が、これまでにシニアに感嘆したお話を少し。

 1時間無料で実施する初回相談に臨む前に、相談者の方に医療事故の内容や治療経過、医師の説明などを記載して頂いた「調査カード」を拝見します。まだまだ医学知識に乏しい私は、当該分野の専門用語の意味や、治療の内容、過去に同種の事例で争われた裁判例などを調べます。よし、これでひとまず知識は大丈夫、と思って初回相談が始まります。

 シニアの弁護士とともに相談者から詳しい経過などを聞き取ります。そして、聞き取った内容をもとに相談者の希望に対する見込みや今後の方針の概要を説明します。

「本件では・・・に問題があるのかもしれません」

「・・・なので病院側の過失を問うのは中々難しいだろうと思います」

 さて、この発言はシニアのものです。ジュニアの中でもとりわけ経験の浅い私にとっては、いかにその分野の医療の知識を頭に入れていたとしても見通し等の一定の判断をするのは容易ではありません。さすがシニアだなあと心の中でひっそりと呟きます。一方、そんな私でもその後の調査や分析に東奔西走し、相談者の依頼に応えられるよう努力します。

 経験豊富なシニアと日々努力するジュニア。このような態勢で医療事故研究会は相談者の方の真摯な相談に日々対応しています。

                                          弁護士 寺谷 洋樹

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2016年11月 4日 (金)

大川小津波判決と過失判断

 

  東日本大震災​​の際,宮城県の石巻市立大川小学校で,​74人の児童と10人の教職員が​津波の​犠牲にな​る悲劇がありました。児童の遺族が県や市に損害賠償を求めていた裁判で,​10月26日,仙台地裁は遺族​に約14億円を支払うよう命じる判決を言い渡しました。

この裁判では,児童の安全に配慮するべき立場にあった教員らに過失があったかどうかが問題になりました。​裁判における過失判断は,「予見可能性を前提とした結果回避義務違反があるか」という形でなされます。​​今回の判決は,​​同小は津波の浸水予測区域に含まれておらず​,過去に津波が同小まで来たこともなかった​ので,事前に津波の襲来は予見できなかった​と認定し,地震直後における予見可能性は否定し​ました。しかし,地震から40~50分が過ぎた午後3時30分ごろ​には​​,​市の広報車が津波の襲来と高台避難を呼びかける放送をし,教員らも​これをも​聞いて​いました。判決は,それを理由に,​同時点で​の予見可能性を肯定する判断をしました。その上で,直ちに児童を​学校裏山の​高台に避難させるべきであったという結果回避義務を認定し,これに反した教員らの過失を肯定したのです。

 さて,裁判における過失判断の構造は,医療訴訟においても同じです。医療訴訟では,医師に,予見可能性を前提とした結果回避義務違反があるか,が争点になります。そして,ある​時点では,悪しき結果を予見して対処することは確かに無理であったが,この時点に至れば予見は可能であり,結果回避措置(例えば緊急手術)を取るべきであった,という​のは,医療訴訟の典型的パターンの一つ​です。​​今回の大川小津波判決と医療訴訟では,前提事実は異なりますが,過失判断において共通する点があるのです。大川小津波判決は,近いうちに判例雑誌に登載されるでしょうから,是非,内容に学んでみたいと思います。

                            弁護士  武谷 元

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2016年9月30日 (金)

美容医療と広告の新たな動きについて

 美容医療と広告の問題については、昨年4月に当研究会のHPでもご案内いたしました。

 とりわけ、医療機関のホームページについては、バナー広告とリンクしないホームページは医療広告にはあたらないという扱いをしていることをご紹介し、そのことが現状多発している美容医療サービストラブルの一因となっていることを指摘しました。

 ところが、本年9月厚労省の「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」が「医療機関のウェブサイト等の取扱いについて(とりまとめ)」と題するものを公表することにより、厚労省がこの流れにストップをかける方針を打ち出しました。

とりまとめでは、まず、美容医療分野を中心に、医療機関のウェブサイト等の閲覧を契機として受診行動に至ることが一般化している中、医療機関のウェブサイト等における情報提供の適正化を図る必要がある、との認識が示されています。

その上で、美容医療以外でも同様に不適切な表示がなされうることや、保険医療機関においても自由診療を行うことがあり指導上の区別が困難であること等を考慮し、美容医療や自由診療に限定せずに医療機関のウェブサイト等に対して共通の規制を設けることが適当であるとしました。

具体的には、医療機関のウェブサイト等による情報提供についても、医療法を改正して規制対象とし、監視・是正体制を強化し実効性を確保することで、不当表示を規制していく方針のようです。

詳細は、厚労省のホームページから、上記とりまとめ等を確認することができますの

で、ぜひご覧になってみて下さい。

( http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000137781.html )

 

                                        弁護士 洞澤 美佳

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2016年8月18日 (木)

医療機関とコンプライアンス

現在、企業不祥事が明るみになった際に、「コンプライアンス」という言葉(用語)が語られることが少なくない。そして、「コンプライアンス」とは、単に法令を遵守していればよいというのではなく、「社会からの要請や期待に応じた適切な活動を行うこと」を意味するものと理解されている。  

医療行為は、一人一人の人間の生命や身体に直接の影響を及ぼす行為であるので、医療行為における過誤は、人間の生命や身体に対して直接致命的なダメージを与える。

法律上の責任は結果責任ではないが、裁判所による過失(注意義務違反)の判断において、医療機関に対する一定の行動ルール(行動準則)が示されることになる。裁判所によるこのような判断の積み重ねが、医療の安全の実現や医療機関におけるコンプライアンスの実現につながり、国民のために望ましい医療の達成をもたらすことになる。

 

                   弁護士 上田 正和

医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

2016年8月 9日 (火)

協力医の重要性について

1 先日、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の薬害訴訟が、東京・名古屋・大阪・福岡の4地裁に提訴されたとの報道がなされました。

  私自身は、上記訴訟の弁護団に属しているわけではないので、どのような法的構成で争うのかという点の詳細はわかりませんが、「子宮頸がんワクチンの接種」と「原告の方々が主張する様々な副反応による被害」との因果関係が、この訴訟の重要な争点になることは間違いないであろうと思います。

2 通常、「因果関係」の存在については、原告側、すなわち、医療訴訟においては患者側が立証することになりますが、この因果関係の立証が患者側に著しく負担になることに鑑み、最高裁判所において、患者である原告側の立証の程度について、一定程度緩和する判断も行われているところです。

  しかしながら、やはり医療訴訟における因果関係立証のハードルは高く、「子宮頸がんワクチンの接種」と「原告の方々が主張する様々な副反応による被害」の存在を証明するだけでは、因果関係が認められるのはなかなか難しいところがあるように思われます。

3 そこで、この訴訟提起の報道に触れ、私が改めて痛感したのは、協力医の必要性・重要性です。

  因果関係立証に際しては、HPVワクチンの接種によって発生している一定割合の副反応が、HPVワクチンのどのような成分・メカニズムに基づいて発生している可能性があるのか、なぜ副反応の発生の仕方に違いが生じているのか等といった点につき、原告側がある程度の立証を行うことが必要になると思われます。

しかしながら、この問題は、現状、明確な結論が出ていないことから、立証に際しては、医学的な知識に基づいて可能性を考え、検証等を行う作業が必要になるかと思われますが、その作業を弁護士のみで行うことは極めて困難であり、医師による医学的知見に基づくアドバイスが必要不可欠であると考えられるからです。

4 上記訴訟がどのような経緯をたどり、どのような結論に至るのかについては、その状況を見守っていくほかありませんが、患者側に立って活動をしている弁護士としては、協力医の必要性・重要性を常に念頭に置き、一人でも多くの医師に協力をしてもらえるよう、弁護士として真摯に活動をしなければならないと改めて痛感した次第です。

そして、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の副反応に苦しむ人たちにも、この訴訟手続きの中で、何らかの救いの光・解決策が見つかることを切に願っております。

                                弁護士 大城 季絵

医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

2016年7月14日 (木)

統合失調症治療薬「ゼプリオン」問題について

 昨月の新聞報道によると,精神疾患の患者支援に取り組むNPO法人「地域精神保健福祉機構」が,統合失調症の治療薬「ゼプリオン」について,201311月の販売開始以降の死亡報告が85人に上っているとして,厚生労働省に原因究明を求める要望書を提出したとのことです。

日経記事のリンクhttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21HBE_R20C16A6CR8000/ )


ゼプリオン」は注射薬で,販売開始後に死亡報告が相次いだことから,厚労省は14

4月,製造販売業者に添付文書の使用上の注意を改訂するよう指示しました。
 
この144月の厚労省の指示の報道を受けて,当研究会では,「ゼプリオン」の問題
を例会の研究テーマに取り上げました。

14523日のこのブログでは,この時の例会の紹介をしています。

あれから2年が経過しましたが,その後も「ゼプリオン」に関連する死亡報告が増え続けて
いることは看過できないといえます。

当研究会では,今後もこの問題を注視していきたいと考えています。

                          弁護士 武谷 元
医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

2016年6月28日 (火)

吸引・鉗子分娩及びクリステレル胎児圧出法の適否

産科医療訴訟においては、出産時の吸引・鉗子分娩及びクリステル胎児圧出法の適否が争われることがあり、請求認容・棄却を含め多くの裁判例があります。

妊娠期間中の児頭は浮動の状態にありますが、妊娠末期になり分娩が近づくと、前駆陣痛が起こり、分娩の準備状態となって児頭の下降が始まります。その際に、様々な理由で児頭の下降が起こらないときにとられるのが、吸引・鉗子分娩やクリステル胎児圧出法です。吸引分娩とは、児頭に吸引カップを装着し、牽引することにより胎児を娩出させる方法、鉗子分娩とは、児頭を挟む鉗子を牽引することにより胎児を娩出させる方法、クリステル胎児圧出法とは、娩出時に、母体を通じて胎児の臀部を押すことにより胎児の娩出を促進する手技をいいます。クリステル胎児圧出法は、吸引・鉗子分娩と併用されることがあります。これらの手法がとられ、特に娩出が不成功であった場合には、胎児に負担がかかることがあり、その選択及び手法の適否が争点となることがあります。

日本産婦人科学会と日本産婦人科医会は、2008年に産科診療におけるガイドラインを策定し、2011年にこれが改定されています。改定されたガイドラインには吸引・鉗子分娩の適応について、分娩第二期の短縮が必要とされた場合、胎児の不全の場合、子宮口全開大かつ既破水、児頭が陥入している(station0)こと等に言及しており、適否を判断する際の参考になります。

 弁護士 石丸 信

医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

2016年2月 2日 (火)

歯科事例に関するシンポジウム

先日、「医療紛争の適切な法的評価と手続選択~最近増えてきた歯科事例を題材にして~」(主催:東京三弁護士会医療関係事件検討協議会)というテーマでシンポジウムが開催され、歯科事例の特徴や患者側代理人として留意すべき事項について、講演やパネルディスカッションが行われました。

歯科事例の特徴として、①診療録の記載が簡略であり、注意義務違反の特定が困難な場合があること、②診療ガイドラインが少なく、医療水準が必ずしも明確でないため、医学的知見に基づく注意義務の立証が難しいこと、③請求額(損害額)が比較的低額であるが、日常生活において症状を感じやすく審美にも影響することや自由診療で高額な負担をしていることもあるため、患者の被害感情が大きい場合があることなどが挙げられていました。

また、「手続選択」という観点からは、医療ADRにおける歯科事例の傾向や、解決事例の紹介もあり、とても勉強になる内容でした。

 患者側の代理人は、(1)医学的文献の確認、協力医からの意見聴取など十分な調査を行い、責任論(医療機関側に法的責任があるか否か)についての見通しを立て、(2)適切な損害額を算出し、(3)紛争解決のための手続(交渉、調停、訴訟、医療ADR)を選択していくことになります。

このことは医療事件一般に当てはまることですが、歯科事例では上記のような特徴があることから、より慎重な判断を求められるケースが多くなります。

 医療事故研究会を通じた相談は2名体制で行われ、うち1名は経験豊富な弁護士ですので事案に即した的確なアドバイスが可能です。

また、初回相談は無料となっていますので、医療過誤ではないかと思われた際は、お気軽にご相談いただければと思います。

 弁護士 品谷圭佑

2016年1月19日 (火)

弁護士、どうやって選ぶ?

医療事故研究会のHPを見に来られる方の中には、

自ら(あるいはご家族が)体験された医療事故について、

弁護士を探して、こちらのHPにたどり着いた方もいらっしゃると思います。

 

医療事故関係に限らず、自治体や弁護士会の法律相談センターなどで

法律相談を担当していると、少なからず、「どの弁護士に依頼したら良いか

わからない。」というご相談を受けることがあります。

そういった方は、いろいろなところの法律相談を回っておられて

弁護士に依頼して解決したい紛争があるのに、

弁護士を一人に決めて選ぶことができず、結局一歩も前に進めていない、

という状況の方が多いように見受けられます。

 

こういったご相談を受けたとき、私はこのようにお答えしています。

紛争の解決については、手段も結果も正解は一つではありません。

弁護士にも一人一人違った考え方があり、

いわゆるセカンドオピニオンを求めることも否定はしませんが、

弁護士が10人いれば10人違った意見をもっていておかしくありません。

多くの弁護士に相談すればよいというものではなく、

それでは、かえって船頭多くして船山に登るというような事態も招きかねません。

ですから、法律相談で話をしてみて、自分の話をきちんときいていくれ、

自分の疑問点に応えてくれる(それは必ずしも聞きたい答えとは一致しませんが)

のであれば、その先生に依頼してよいと思います。

 

もちろん、法律相談の分野によっては、

弁護士であればたいていは誰でも受けることができるものと

経験や、専門的な知識が必要になってくるものもあります。

通常の法律相談において、

特別な知識を必要とする分野はそれほど多いわけではありませんし、

弁護士会などの法律相談であれば、専門相談のための法律相談もありますから

それほど心配なさる必要はないと思います。

 

医療問題に関していえば、やはり特別な知識が必要と言わざるを得ないと

思いますが医療事故研究会では、二人の弁護士が法律相談にあたっています。

所属するどの弁護士も、(ブログでも報告を見かけますが)研修会などで

医療事故問題に関する研鑽を積んでいますし、

二人体制とすることで、(船が山に登ることなく)多角的な視点で相談を

受けることができます。

初回は無料ですし、是非、お気軽にご相談いただきたいと思います。

 

                    弁護士 東 麗子

2016年1月 5日 (火)

責任を問うべき医療機関の「落度」とは?

このブログをご覧になっている皆様へ

新年明けましておめでとうございます。今年も医療事故研究会をよろしくお願いいたします。私共も、当研究会を頼りにして下さっている皆様の期待を裏切らないよう、日々精進していく所存です。

 さて、今回は医療機関の「落度」はすべて「過失として責任追及の対象なのか?」について書いてみたいと思います。

 この点については、医療事故事件の経験の浅い弁護士も誤解している人が結構いるようです。

 どんな治療過程でも、ましてや入院期間が長くなるほど、医療従事者の行為に落度が発生する可能性はあります。しかし医師たちは、落度を事後的にフォローしたり、治療方針の軌道修正をしながら進んでいきます。100点満点の医療などはまずありません。

 医療過誤事件は、何か悪い結果が生じた場合に問題となるものですが、その治療過程にはその結果とは関連性の薄いいくつかの落度もあるのが普通です。我々医療過誤事件を専門に扱う弁護士は、生じた結果と因果関係のある落度とない落度を峻別してカルテを分析していきます。

 患者さんやご遺族の中には、いくつかの「落度」の印象が強く、それに対する法的責任の追及を考えておられる場合も多いですが、我々の調査の結果とは一致しないことも多いです。

 従って、私の事務所を出られる患者さんやそのご家族からはよく、(私共弁護士とすり合わせをすることにより)「だいぶ頭の整理ができた。」「先生と話すとすっきりする。」とのお言葉をいただくことがあります。

 悩まれているなら、当研究会にご一報されてはどうでしょうか。

                       弁護士 羽賀 千栄子

医療事故研究会HP http://www.iryoujiko.net

2015年12月22日 (火)

新年のテレフォンガイドは1月5日からです

医療事故研究会では,毎週火曜日の午後1時から3時に弁護士によるテレフォンガイドを行っています。本日も数件のお電話をいただきまして,ありがとうございました。


来週12月29日は,年末のお休みのため,本日をもって,今年のテレフォンガイドは終わり,次回は,年明けの1月5日(火)の午後1時からの予定です。


本年も大変お世話になりました。どうぞよいお年をお迎え下さい。


新年もどうぞよろしくお願いいたします。


弁護士 木村文幸

2015年11月26日 (木)

医療問題弁護団・研究会全国交流集会(大阪)

今月6日,7日大阪にて開かれた医療問題弁護団・研究会

全国交流集会に参加しました。

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この集会は,全国各地の医療訴訟に患者側で取り組む弁護士

の団体が,年1回,一堂に会して研究発表などを行うものです。

昭和50年代から毎年行われている伝統ある行事であり,今年は37回目と

なりました。

今年も発表はどれも貴重な内容でしたが,特に,横浜弁護団の

「電子カルテの証拠保全」は,大変印象に残りました。

 

最近は,大規模医療機関を中心に電子カルテ化が

進んでおり,カルテ開示や証拠保全においても,

電子データのプリントアウト版が交付されることが

増えています。

 

電子カルテは,手書きのカルテに比べて読みやすいという利点

はありますが,特殊な構成がされている箇所もあり,

思わぬ読み間違いをしてしまう危険もあります。

 

今回の発表では,こうした電子カルテの特性について,具体的事例

を示しながらの,分かりやすい解説を聞くことができました。

 

発表にあたっては,電子カルテのソフトウェアメーカーの担当者

からの聞き取り調査も行ったようです。

 

現場で医療訴訟に取り組んでいる弁護団ならではの,

実践的かつ高度な発表でした。

 

そのほか,元大阪地裁医療集中部の裁判長の医療訴訟における

因果関係の立証をめぐる課題に関する講演と,それに続く会場からの活発な

質問や意見表明も,非常に有意義な内容でした。

 

私は,弁護士になって以来,毎年欠かさず,この交流集会に出席

しています。

 

医療訴訟に取り組んでいる弁護士は,普段の裁判の仕事以外に,

このような研鑽を行っていることを知って頂きたいです。

                                                     弁護士 武谷 元

 

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