2016年8月18日 (木)

医療機関とコンプライアンス

現在、企業不祥事が明るみになった際に、「コンプライアンス」という言葉(用語)が語られることが少なくない。そして、「コンプライアンス」とは、単に法令を遵守していればよいというのではなく、「社会からの要請や期待に応じた適切な活動を行うこと」を意味するものと理解されている。  

医療行為は、一人一人の人間の生命や身体に直接の影響を及ぼす行為であるので、医療行為における過誤は、人間の生命や身体に対して直接致命的なダメージを与える。

法律上の責任は結果責任ではないが、裁判所による過失(注意義務違反)の判断において、医療機関に対する一定の行動ルール(行動準則)が示されることになる。裁判所によるこのような判断の積み重ねが、医療の安全の実現や医療機関におけるコンプライアンスの実現につながり、国民のために望ましい医療の達成をもたらすことになる。

 

                   弁護士 上田 正和

2016年8月 9日 (火)

協力医の重要性について

1 先日、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の薬害訴訟が、東京・名古屋・大阪・福岡の4地裁に提訴されたとの報道がなされました。

  私自身は、上記訴訟の弁護団に属しているわけではないので、どのような法的構成で争うのかという点の詳細はわかりませんが、「子宮頸がんワクチンの接種」と「原告の方々が主張する様々な副反応による被害」との因果関係が、この訴訟の重要な争点になることは間違いないであろうと思います。

2 通常、「因果関係」の存在については、原告側、すなわち、医療訴訟においては患者側が立証することになりますが、この因果関係の立証が患者側に著しく負担になることに鑑み、最高裁判所において、患者である原告側の立証の程度について、一定程度緩和する判断も行われているところです。

  しかしながら、やはり医療訴訟における因果関係立証のハードルは高く、「子宮頸がんワクチンの接種」と「原告の方々が主張する様々な副反応による被害」の存在を証明するだけでは、因果関係が認められるのはなかなか難しいところがあるように思われます。

3 そこで、この訴訟提起の報道に触れ、私が改めて痛感したのは、協力医の必要性・重要性です。

  因果関係立証に際しては、HPVワクチンの接種によって発生している一定割合の副反応が、HPVワクチンのどのような成分・メカニズムに基づいて発生している可能性があるのか、なぜ副反応の発生の仕方に違いが生じているのか等といった点につき、原告側がある程度の立証を行うことが必要になると思われます。

しかしながら、この問題は、現状、明確な結論が出ていないことから、立証に際しては、医学的な知識に基づいて可能性を考え、検証等を行う作業が必要になるかと思われますが、その作業を弁護士のみで行うことは極めて困難であり、医師による医学的知見に基づくアドバイスが必要不可欠であると考えられるからです。

4 上記訴訟がどのような経緯をたどり、どのような結論に至るのかについては、その状況を見守っていくほかありませんが、患者側に立って活動をしている弁護士としては、協力医の必要性・重要性を常に念頭に置き、一人でも多くの医師に協力をしてもらえるよう、弁護士として真摯に活動をしなければならないと改めて痛感した次第です。

そして、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の副反応に苦しむ人たちにも、この訴訟手続きの中で、何らかの救いの光・解決策が見つかることを切に願っております。

                                弁護士 大城 季絵

2016年7月14日 (木)

統合失調症治療薬「ゼプリオン」問題について

 昨月の新聞報道によると,精神疾患の患者支援に取り組むNPO法人「地域精神保健福祉機構」が,統合失調症の治療薬「ゼプリオン」について,201311月の販売開始以降の死亡報告が85人に上っているとして,厚生労働省に原因究明を求める要望書を提出したとのことです。

日経記事のリンクhttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21HBE_R20C16A6CR8000/ )


ゼプリオン」は注射薬で,販売開始後に死亡報告が相次いだことから,厚労省は14

4月,製造販売業者に添付文書の使用上の注意を改訂するよう指示しました。
 
この144月の厚労省の指示の報道を受けて,当研究会では,「ゼプリオン」の問題
を例会の研究テーマに取り上げました。

14523日のこのブログでは,この時の例会の紹介をしています。

あれから2年が経過しましたが,その後も「ゼプリオン」に関連する死亡報告が増え続けて
いることは看過できないといえます。

当研究会では,今後もこの問題を注視していきたいと考えています。

                          弁護士 武谷 元

2016年6月28日 (火)

吸引・鉗子分娩及びクリステレル胎児圧出法の適否

産科医療訴訟においては、出産時の吸引・鉗子分娩及びクリステル胎児圧出法の適否が争われることがあり、請求認容・棄却を含め多くの裁判例があります。

妊娠期間中の児頭は浮動の状態にありますが、妊娠末期になり分娩が近づくと、前駆陣痛が起こり、分娩の準備状態となって児頭の下降が始まります。その際に、様々な理由で児頭の下降が起こらないときにとられるのが、吸引・鉗子分娩やクリステル胎児圧出法です。吸引分娩とは、児頭に吸引カップを装着し、牽引することにより胎児を娩出させる方法、鉗子分娩とは、児頭を挟む鉗子を牽引することにより胎児を娩出させる方法、クリステル胎児圧出法とは、娩出時に、母体を通じて胎児の臀部を押すことにより胎児の娩出を促進する手技をいいます。クリステル胎児圧出法は、吸引・鉗子分娩と併用されることがあります。これらの手法がとられ、特に娩出が不成功であった場合には、胎児に負担がかかることがあり、その選択及び手法の適否が争点となることがあります。

日本産婦人科学会と日本産婦人科医会は、2008年に産科診療におけるガイドラインを策定し、2011年にこれが改定されています。改定されたガイドラインには吸引・鉗子分娩の適応について、分娩第二期の短縮が必要とされた場合、胎児の不全の場合、子宮口全開大かつ既破水、児頭が陥入している(station0)こと等に言及しており、適否を判断する際の参考になります。

 弁護士 石丸 信

2016年2月 2日 (火)

歯科事例に関するシンポジウム

先日、「医療紛争の適切な法的評価と手続選択~最近増えてきた歯科事例を題材にして~」(主催:東京三弁護士会医療関係事件検討協議会)というテーマでシンポジウムが開催され、歯科事例の特徴や患者側代理人として留意すべき事項について、講演やパネルディスカッションが行われました。

歯科事例の特徴として、①診療録の記載が簡略であり、注意義務違反の特定が困難な場合があること、②診療ガイドラインが少なく、医療水準が必ずしも明確でないため、医学的知見に基づく注意義務の立証が難しいこと、③請求額(損害額)が比較的低額であるが、日常生活において症状を感じやすく審美にも影響することや自由診療で高額な負担をしていることもあるため、患者の被害感情が大きい場合があることなどが挙げられていました。

また、「手続選択」という観点からは、医療ADRにおける歯科事例の傾向や、解決事例の紹介もあり、とても勉強になる内容でした。

 患者側の代理人は、(1)医学的文献の確認、協力医からの意見聴取など十分な調査を行い、責任論(医療機関側に法的責任があるか否か)についての見通しを立て、(2)適切な損害額を算出し、(3)紛争解決のための手続(交渉、調停、訴訟、医療ADR)を選択していくことになります。

このことは医療事件一般に当てはまることですが、歯科事例では上記のような特徴があることから、より慎重な判断を求められるケースが多くなります。

 医療事故研究会を通じた相談は2名体制で行われ、うち1名は経験豊富な弁護士ですので事案に即した的確なアドバイスが可能です。

また、初回相談は無料となっていますので、医療過誤ではないかと思われた際は、お気軽にご相談いただければと思います。

 弁護士 品谷圭佑

2016年1月19日 (火)

弁護士、どうやって選ぶ?

医療事故研究会のHPを見に来られる方の中には、

自ら(あるいはご家族が)体験された医療事故について、

弁護士を探して、こちらのHPにたどり着いた方もいらっしゃると思います。

 

医療事故関係に限らず、自治体や弁護士会の法律相談センターなどで

法律相談を担当していると、少なからず、「どの弁護士に依頼したら良いか

わからない。」というご相談を受けることがあります。

そういった方は、いろいろなところの法律相談を回っておられて

弁護士に依頼して解決したい紛争があるのに、

弁護士を一人に決めて選ぶことができず、結局一歩も前に進めていない、

という状況の方が多いように見受けられます。

 

こういったご相談を受けたとき、私はこのようにお答えしています。

紛争の解決については、手段も結果も正解は一つではありません。

弁護士にも一人一人違った考え方があり、

いわゆるセカンドオピニオンを求めることも否定はしませんが、

弁護士が10人いれば10人違った意見をもっていておかしくありません。

多くの弁護士に相談すればよいというものではなく、

それでは、かえって船頭多くして船山に登るというような事態も招きかねません。

ですから、法律相談で話をしてみて、自分の話をきちんときいていくれ、

自分の疑問点に応えてくれる(それは必ずしも聞きたい答えとは一致しませんが)

のであれば、その先生に依頼してよいと思います。

 

もちろん、法律相談の分野によっては、

弁護士であればたいていは誰でも受けることができるものと

経験や、専門的な知識が必要になってくるものもあります。

通常の法律相談において、

特別な知識を必要とする分野はそれほど多いわけではありませんし、

弁護士会などの法律相談であれば、専門相談のための法律相談もありますから

それほど心配なさる必要はないと思います。

 

医療問題に関していえば、やはり特別な知識が必要と言わざるを得ないと

思いますが医療事故研究会では、二人の弁護士が法律相談にあたっています。

所属するどの弁護士も、(ブログでも報告を見かけますが)研修会などで

医療事故問題に関する研鑽を積んでいますし、

二人体制とすることで、(船が山に登ることなく)多角的な視点で相談を

受けることができます。

初回は無料ですし、是非、お気軽にご相談いただきたいと思います。

 

                    弁護士 東 麗子

2016年1月 5日 (火)

責任を問うべき医療機関の「落度」とは?

このブログをご覧になっている皆様へ

新年明けましておめでとうございます。今年も医療事故研究会をよろしくお願いいたします。私共も、当研究会を頼りにして下さっている皆様の期待を裏切らないよう、日々精進していく所存です。

 さて、今回は医療機関の「落度」はすべて「過失として責任追及の対象なのか?」について書いてみたいと思います。

 この点については、医療事故事件の経験の浅い弁護士も誤解している人が結構いるようです。

 どんな治療過程でも、ましてや入院期間が長くなるほど、医療従事者の行為に落度が発生する可能性はあります。しかし医師たちは、落度を事後的にフォローしたり、治療方針の軌道修正をしながら進んでいきます。100点満点の医療などはまずありません。

 医療過誤事件は、何か悪い結果が生じた場合に問題となるものですが、その治療過程にはその結果とは関連性の薄いいくつかの落度もあるのが普通です。我々医療過誤事件を専門に扱う弁護士は、生じた結果と因果関係のある落度とない落度を峻別してカルテを分析していきます。

 患者さんやご遺族の中には、いくつかの「落度」の印象が強く、それに対する法的責任の追及を考えておられる場合も多いですが、我々の調査の結果とは一致しないことも多いです。

 従って、私の事務所を出られる患者さんやそのご家族からはよく、(私共弁護士とすり合わせをすることにより)「だいぶ頭の整理ができた。」「先生と話すとすっきりする。」とのお言葉をいただくことがあります。

 悩まれているなら、当研究会にご一報されてはどうでしょうか。

                       弁護士 羽賀 千栄子

2015年12月22日 (火)

新年のテレフォンガイドは1月5日からです

医療事故研究会では,毎週火曜日の午後1時から3時に弁護士によるテレフォンガイドを行っています。本日も数件のお電話をいただきまして,ありがとうございました。


来週12月29日は,年末のお休みのため,本日をもって,今年のテレフォンガイドは終わり,次回は,年明けの1月5日(火)の午後1時からの予定です。


本年も大変お世話になりました。どうぞよいお年をお迎え下さい。


新年もどうぞよろしくお願いいたします。


弁護士 木村文幸

2015年11月26日 (木)

医療問題弁護団・研究会全国交流集会(大阪)

今月6日,7日大阪にて開かれた医療問題弁護団・研究会

全国交流集会に参加しました。

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この集会は,全国各地の医療訴訟に患者側で取り組む弁護士

の団体が,年1回,一堂に会して研究発表などを行うものです。

昭和50年代から毎年行われている伝統ある行事であり,今年は37回目と

なりました。

今年も発表はどれも貴重な内容でしたが,特に,横浜弁護団の

「電子カルテの証拠保全」は,大変印象に残りました。

 

最近は,大規模医療機関を中心に電子カルテ化が

進んでおり,カルテ開示や証拠保全においても,

電子データのプリントアウト版が交付されることが

増えています。

 

電子カルテは,手書きのカルテに比べて読みやすいという利点

はありますが,特殊な構成がされている箇所もあり,

思わぬ読み間違いをしてしまう危険もあります。

 

今回の発表では,こうした電子カルテの特性について,具体的事例

を示しながらの,分かりやすい解説を聞くことができました。

 

発表にあたっては,電子カルテのソフトウェアメーカーの担当者

からの聞き取り調査も行ったようです。

 

現場で医療訴訟に取り組んでいる弁護団ならではの,

実践的かつ高度な発表でした。

 

そのほか,元大阪地裁医療集中部の裁判長の医療訴訟における

因果関係の立証をめぐる課題に関する講演と,それに続く会場からの活発な

質問や意見表明も,非常に有意義な内容でした。

 

私は,弁護士になって以来,毎年欠かさず,この交流集会に出席

しています。

 

医療訴訟に取り組んでいる弁護士は,普段の裁判の仕事以外に,

このような研鑽を行っていることを知って頂きたいです。

                                                     弁護士 武谷 元

 

2015年8月18日 (火)

医療事故調査制度の第三者機関指定

  今年10月から,医療事故調査制度が施行されますが,本日付の新聞各紙で,厚生労働省が,第三者機関を指定したことが報道されています。  

  医療事故調査制度とは,医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い,その調査報告を民間の第三者機関が収集・分析することで,再発防止につなげるための医療事故に係る調査の仕組み等を,医療法に位置づけ,医療の安全を確保するものです(厚生労働省ウェブサイトより引用)。

 この制度の問題点の解説として,非常に分かりやすいのがNHK時論公論(2015年7月9日)でした。時論公論のウェブサイトを見てみますと,主な課題として,医療機関が「医療事故」の該当性を判断すること,調査は中立的機関によるものではなく院内調査であること,報告書が遺族に交付されない可能性があること(調査対象となる医療事故は,死亡又は死産に限られていますので,患者本人ではなく遺族が報告を受けます。),が挙げられています。  

  医療事故に携わる弁護士としては,遺族に報告書が交付されない可能性があるという点は,改善を要すると感じます。この背景には,報告書を証拠として用いることで,提訴が容易になってしまい,病院が責任追及を受けることになり,制度目的に反するということがあるようです。確かに,この制度の目的は,責任追及ではなく,医療事故の再発防止という点にあるのですが,この制度は,民事訴訟法に基づく証拠の収集や提出を排除しているわけではありませんので,遺族への報告書の交付を拒否したからといって,提訴防止にさほど効果があるとは思えません。すなわち,ご家族を亡くした遺族は,真相究明を強く望むことが通常ですので,得られる情報が少なければ,真相究明の手段として,訴訟を利用したいという心理になることが多く,訴訟手続の過程で報告書の入手を望むと思われるのです。  

  この制度によっても,報告書を遺族に交付することが禁じられているわけではありませんので,調査を実施した病院が報告書を遺族へ交付するという例が増えるとよいと思います。                   

                                                          弁護士 鶴田 信紀

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