2017年2月17日 (金)

医療裁判こぼれ話

 医療裁判では,高度で専門的な医学の知識が必要とされます。

 当然,医療過誤事件を担当する弁護士もその分野の文献や資料に接して一生懸命勉強しますが,多くの弁護士はやはり医者ではないため,限界があります。

そこで,患者側の立場に立って医学的な意見を述べていただける協力医の存在が不可欠になります。

 具体的には,患者及びご家族の依頼を受けて医療過誤の可能性について調査する段階での意見,裁判段階での私的な意見書の作成,また,病院側の医師の主張に対して意見を頂戴し,場合によっては証人尋問を受けていただくこともあります。

 このように,医療裁判を進めるにあたっては,協力医との信頼関係と友好関係の構築が非常に重要となりますが,そのように考えると,医療裁判を手がける弁護士にとっては,医療裁判そのもののスキルのほかに,いかに良い協力医に巡り会うことができるか,医師との人脈作りも非常に大切であることを痛感させられます。

 この医師との人脈作りは,まだ自分は全く不充分ですので,医療事故研究会での活動を通じて,医師との人脈もどんどん開拓していきたい,と思っています。 

                  弁護士 松井 創 

2017年1月24日 (火)

医療ADR仲裁人雑感

以前のブログでも,どなたかが,弁護士会の紛争解決機関である医療ADRについて紹介していたと思いますが,私は今まで仲裁人として,多くのケースに関与してきました。

そして,まだまだ利用していただけるケースは多いのではないかと思い,現時点で考えていることを書いてみます。

 

私は,医療ADRに適しているケースは,過失を認めるか否かは別にして,医療機関も自らの施設で起きた悪しき結果であると受け止め,何等かの形で患者側に謝罪したいと思っているが,当事者間ではうまく話し合いができないケース,だと思います。

間に医療過誤に精通している人を入れないと,いざ医療機関が「誠意」を見せようとしても,たとえば患者側は「損害賠償するのだな。」と考え,何千万円の請求をしてみたり,その後,話がかみ合わなくなることが考えられます。

短い文章でこのあたりの機微を正確に書ききることは困難なので,書きませんが,医療機関が患者側に配慮する場合のスタンスは,損害賠償に限ったことではないということです。

もちろん,いずれにしても,解決に至るまでには,相互の十分な対話,患者側の納得が必要です。そして,その対話のお手伝いには,医療ADRが最適なのです。

東京都の3弁護士会で,それぞれ仲裁人の体制が異なっていますが,我々医療ADR仲裁人候補者は,3弁護士会すべての医療ADRから依頼を受けています。

私が所属する東京弁護士会は,日頃患者側で代理人をしている弁護士,同医療側の弁護士,仲裁人の経験が長い弁護士の3人体制で行っています。リストを見て,仲裁人の指名もできます。

 

反対に,医療ADRの利用の仕方に問題があるのではないか,というケースもいくつかありました。すべて患者側に代理人がついているケースでした。裁判では勝訴は困難だが,医療ADRに持ち込めば,多少何とかなるのでは,という「ポリシー」で持ち込んでいるのだそうです。

しかし,そのようなケースが増えると,本制度に対する医療機関からの信頼がなくなることは明らかです。実際,医療側の弁護士と,私の依頼者の事件で交渉しているとき,医療ADRの話になり,「病院から金を無理やり出させる制度なので,応諾しないことにしている。」と言われたことがあります。

また,医療機関側に,詳細な質問を繰り返すことを「対話」と誤解されている人もおられ,医療ADRの場で仲裁人として聞いていた私は,我慢できずに,「そういうことは,裁判を起こして証人尋問で聴いたらどうか。」と言ったこともありました。

 

しかし,見方を変えれば,上記のようなケースも,「医療ADRの利用の仕方」について仲裁人と当事者が「対話」できることになり,双方の意見をぶつけ合うことで,本制度がより進化するトリガーとなり得るのかもしれません。

より広く,特に,「弁護士さんを代理人に立てる費用を考えると躊躇する」という方に,利用は有料ではありますが,医療ADRの検討をお勧めします。

 

                                     弁護士 羽賀 千栄子

2016年12月 6日 (火)

シニアとジュニア

当研究会では、二人の弁護士で初回相談に応じています。一人は医療事故に関して豊富な知識と経験をもつ「シニア」の弁護士と、もう一人は経験こそ多くないものの学習意欲と行動力に自信のある「ジュニア」の弁護士です。そんなジュニアの私が、これまでにシニアに感嘆したお話を少し。

 1時間無料で実施する初回相談に臨む前に、相談者の方に医療事故の内容や治療経過、医師の説明などを記載して頂いた「調査カード」を拝見します。まだまだ医学知識に乏しい私は、当該分野の専門用語の意味や、治療の内容、過去に同種の事例で争われた裁判例などを調べます。よし、これでひとまず知識は大丈夫、と思って初回相談が始まります。

 シニアの弁護士とともに相談者から詳しい経過などを聞き取ります。そして、聞き取った内容をもとに相談者の希望に対する見込みや今後の方針の概要を説明します。

「本件では・・・に問題があるのかもしれません」

「・・・なので病院側の過失を問うのは中々難しいだろうと思います」

 さて、この発言はシニアのものです。ジュニアの中でもとりわけ経験の浅い私にとっては、いかにその分野の医療の知識を頭に入れていたとしても見通し等の一定の判断をするのは容易ではありません。さすがシニアだなあと心の中でひっそりと呟きます。一方、そんな私でもその後の調査や分析に東奔西走し、相談者の依頼に応えられるよう努力します。

 経験豊富なシニアと日々努力するジュニア。このような態勢で医療事故研究会は相談者の方の真摯な相談に日々対応しています。

                                          弁護士 寺谷 洋樹

2016年11月 4日 (金)

大川小津波判決と過失判断

 

  東日本大震災​​の際,宮城県の石巻市立大川小学校で,​74人の児童と10人の教職員が​津波の​犠牲にな​る悲劇がありました。児童の遺族が県や市に損害賠償を求めていた裁判で,​10月26日,仙台地裁は遺族​に約14億円を支払うよう命じる判決を言い渡しました。

この裁判では,児童の安全に配慮するべき立場にあった教員らに過失があったかどうかが問題になりました。​裁判における過失判断は,「予見可能性を前提とした結果回避義務違反があるか」という形でなされます。​​今回の判決は,​​同小は津波の浸水予測区域に含まれておらず​,過去に津波が同小まで来たこともなかった​ので,事前に津波の襲来は予見できなかった​と認定し,地震直後における予見可能性は否定し​ました。しかし,地震から40~50分が過ぎた午後3時30分ごろ​には​​,​市の広報車が津波の襲来と高台避難を呼びかける放送をし,教員らも​これをも​聞いて​いました。判決は,それを理由に,​同時点で​の予見可能性を肯定する判断をしました。その上で,直ちに児童を​学校裏山の​高台に避難させるべきであったという結果回避義務を認定し,これに反した教員らの過失を肯定したのです。

 さて,裁判における過失判断の構造は,医療訴訟においても同じです。医療訴訟では,医師に,予見可能性を前提とした結果回避義務違反があるか,が争点になります。そして,ある​時点では,悪しき結果を予見して対処することは確かに無理であったが,この時点に至れば予見は可能であり,結果回避措置(例えば緊急手術)を取るべきであった,という​のは,医療訴訟の典型的パターンの一つ​です。​​今回の大川小津波判決と医療訴訟では,前提事実は異なりますが,過失判断において共通する点があるのです。大川小津波判決は,近いうちに判例雑誌に登載されるでしょうから,是非,内容に学んでみたいと思います。

                            弁護士  武谷 元

2016年9月30日 (金)

美容医療と広告の新たな動きについて

 美容医療と広告の問題については、昨年4月に当研究会のHPでもご案内いたしました。

 とりわけ、医療機関のホームページについては、バナー広告とリンクしないホームページは医療広告にはあたらないという扱いをしていることをご紹介し、そのことが現状多発している美容医療サービストラブルの一因となっていることを指摘しました。

 ところが、本年9月厚労省の「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」が「医療機関のウェブサイト等の取扱いについて(とりまとめ)」と題するものを公表することにより、厚労省がこの流れにストップをかける方針を打ち出しました。

とりまとめでは、まず、美容医療分野を中心に、医療機関のウェブサイト等の閲覧を契機として受診行動に至ることが一般化している中、医療機関のウェブサイト等における情報提供の適正化を図る必要がある、との認識が示されています。

その上で、美容医療以外でも同様に不適切な表示がなされうることや、保険医療機関においても自由診療を行うことがあり指導上の区別が困難であること等を考慮し、美容医療や自由診療に限定せずに医療機関のウェブサイト等に対して共通の規制を設けることが適当であるとしました。

具体的には、医療機関のウェブサイト等による情報提供についても、医療法を改正して規制対象とし、監視・是正体制を強化し実効性を確保することで、不当表示を規制していく方針のようです。

詳細は、厚労省のホームページから、上記とりまとめ等を確認することができますの

で、ぜひご覧になってみて下さい。

( http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000137781.html )

 

                                        弁護士 洞澤 美佳

2016年8月18日 (木)

医療機関とコンプライアンス

現在、企業不祥事が明るみになった際に、「コンプライアンス」という言葉(用語)が語られることが少なくない。そして、「コンプライアンス」とは、単に法令を遵守していればよいというのではなく、「社会からの要請や期待に応じた適切な活動を行うこと」を意味するものと理解されている。  

医療行為は、一人一人の人間の生命や身体に直接の影響を及ぼす行為であるので、医療行為における過誤は、人間の生命や身体に対して直接致命的なダメージを与える。

法律上の責任は結果責任ではないが、裁判所による過失(注意義務違反)の判断において、医療機関に対する一定の行動ルール(行動準則)が示されることになる。裁判所によるこのような判断の積み重ねが、医療の安全の実現や医療機関におけるコンプライアンスの実現につながり、国民のために望ましい医療の達成をもたらすことになる。

 

                   弁護士 上田 正和

2016年8月 9日 (火)

協力医の重要性について

1 先日、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の薬害訴訟が、東京・名古屋・大阪・福岡の4地裁に提訴されたとの報道がなされました。

  私自身は、上記訴訟の弁護団に属しているわけではないので、どのような法的構成で争うのかという点の詳細はわかりませんが、「子宮頸がんワクチンの接種」と「原告の方々が主張する様々な副反応による被害」との因果関係が、この訴訟の重要な争点になることは間違いないであろうと思います。

2 通常、「因果関係」の存在については、原告側、すなわち、医療訴訟においては患者側が立証することになりますが、この因果関係の立証が患者側に著しく負担になることに鑑み、最高裁判所において、患者である原告側の立証の程度について、一定程度緩和する判断も行われているところです。

  しかしながら、やはり医療訴訟における因果関係立証のハードルは高く、「子宮頸がんワクチンの接種」と「原告の方々が主張する様々な副反応による被害」の存在を証明するだけでは、因果関係が認められるのはなかなか難しいところがあるように思われます。

3 そこで、この訴訟提起の報道に触れ、私が改めて痛感したのは、協力医の必要性・重要性です。

  因果関係立証に際しては、HPVワクチンの接種によって発生している一定割合の副反応が、HPVワクチンのどのような成分・メカニズムに基づいて発生している可能性があるのか、なぜ副反応の発生の仕方に違いが生じているのか等といった点につき、原告側がある程度の立証を行うことが必要になると思われます。

しかしながら、この問題は、現状、明確な結論が出ていないことから、立証に際しては、医学的な知識に基づいて可能性を考え、検証等を行う作業が必要になるかと思われますが、その作業を弁護士のみで行うことは極めて困難であり、医師による医学的知見に基づくアドバイスが必要不可欠であると考えられるからです。

4 上記訴訟がどのような経緯をたどり、どのような結論に至るのかについては、その状況を見守っていくほかありませんが、患者側に立って活動をしている弁護士としては、協力医の必要性・重要性を常に念頭に置き、一人でも多くの医師に協力をしてもらえるよう、弁護士として真摯に活動をしなければならないと改めて痛感した次第です。

そして、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の副反応に苦しむ人たちにも、この訴訟手続きの中で、何らかの救いの光・解決策が見つかることを切に願っております。

                                弁護士 大城 季絵

2016年7月14日 (木)

統合失調症治療薬「ゼプリオン」問題について

 昨月の新聞報道によると,精神疾患の患者支援に取り組むNPO法人「地域精神保健福祉機構」が,統合失調症の治療薬「ゼプリオン」について,201311月の販売開始以降の死亡報告が85人に上っているとして,厚生労働省に原因究明を求める要望書を提出したとのことです。

日経記事のリンクhttp://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21HBE_R20C16A6CR8000/ )


ゼプリオン」は注射薬で,販売開始後に死亡報告が相次いだことから,厚労省は14

4月,製造販売業者に添付文書の使用上の注意を改訂するよう指示しました。
 
この144月の厚労省の指示の報道を受けて,当研究会では,「ゼプリオン」の問題
を例会の研究テーマに取り上げました。

14523日のこのブログでは,この時の例会の紹介をしています。

あれから2年が経過しましたが,その後も「ゼプリオン」に関連する死亡報告が増え続けて
いることは看過できないといえます。

当研究会では,今後もこの問題を注視していきたいと考えています。

                          弁護士 武谷 元

2016年6月28日 (火)

吸引・鉗子分娩及びクリステレル胎児圧出法の適否

産科医療訴訟においては、出産時の吸引・鉗子分娩及びクリステル胎児圧出法の適否が争われることがあり、請求認容・棄却を含め多くの裁判例があります。

妊娠期間中の児頭は浮動の状態にありますが、妊娠末期になり分娩が近づくと、前駆陣痛が起こり、分娩の準備状態となって児頭の下降が始まります。その際に、様々な理由で児頭の下降が起こらないときにとられるのが、吸引・鉗子分娩やクリステル胎児圧出法です。吸引分娩とは、児頭に吸引カップを装着し、牽引することにより胎児を娩出させる方法、鉗子分娩とは、児頭を挟む鉗子を牽引することにより胎児を娩出させる方法、クリステル胎児圧出法とは、娩出時に、母体を通じて胎児の臀部を押すことにより胎児の娩出を促進する手技をいいます。クリステル胎児圧出法は、吸引・鉗子分娩と併用されることがあります。これらの手法がとられ、特に娩出が不成功であった場合には、胎児に負担がかかることがあり、その選択及び手法の適否が争点となることがあります。

日本産婦人科学会と日本産婦人科医会は、2008年に産科診療におけるガイドラインを策定し、2011年にこれが改定されています。改定されたガイドラインには吸引・鉗子分娩の適応について、分娩第二期の短縮が必要とされた場合、胎児の不全の場合、子宮口全開大かつ既破水、児頭が陥入している(station0)こと等に言及しており、適否を判断する際の参考になります。

 弁護士 石丸 信

2016年2月 2日 (火)

歯科事例に関するシンポジウム

先日、「医療紛争の適切な法的評価と手続選択~最近増えてきた歯科事例を題材にして~」(主催:東京三弁護士会医療関係事件検討協議会)というテーマでシンポジウムが開催され、歯科事例の特徴や患者側代理人として留意すべき事項について、講演やパネルディスカッションが行われました。

歯科事例の特徴として、①診療録の記載が簡略であり、注意義務違反の特定が困難な場合があること、②診療ガイドラインが少なく、医療水準が必ずしも明確でないため、医学的知見に基づく注意義務の立証が難しいこと、③請求額(損害額)が比較的低額であるが、日常生活において症状を感じやすく審美にも影響することや自由診療で高額な負担をしていることもあるため、患者の被害感情が大きい場合があることなどが挙げられていました。

また、「手続選択」という観点からは、医療ADRにおける歯科事例の傾向や、解決事例の紹介もあり、とても勉強になる内容でした。

 患者側の代理人は、(1)医学的文献の確認、協力医からの意見聴取など十分な調査を行い、責任論(医療機関側に法的責任があるか否か)についての見通しを立て、(2)適切な損害額を算出し、(3)紛争解決のための手続(交渉、調停、訴訟、医療ADR)を選択していくことになります。

このことは医療事件一般に当てはまることですが、歯科事例では上記のような特徴があることから、より慎重な判断を求められるケースが多くなります。

 医療事故研究会を通じた相談は2名体制で行われ、うち1名は経験豊富な弁護士ですので事案に即した的確なアドバイスが可能です。

また、初回相談は無料となっていますので、医療過誤ではないかと思われた際は、お気軽にご相談いただければと思います。

 弁護士 品谷圭佑

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